追悼連載~「コービー激動の41年」その72 数奇な出会いの始まりは乱闘から
2020年04月28日 08:45
バスケット
ラフファイトはさらに続いた。第4クオーターの5分すぎ、今度はリバウンドをコービー・ブライアントと争ったロン・アーテストが“噴火”する。審判に対し「あいつは右のひじでオレの顔を殴った」と主張。そしてブライアントに詰め寄って「お前、やったよな」と不満をぶつけた。ブライアントは両手を挙げて争わない姿勢?を示し、すぐに審判が間に入って仲裁。主審はアーテストにテクニカル・ファウルを宣告し、この試合で2度目となったことから退場処分となった。試合はレイカーズが111―98で勝ってホームでの連敗は免れたが、何もないと思われたこのカードは一気に因縁の対決として注目されるようになった。
思えばなんと運命的な事件だったことか…。レイカーズはこのシリーズを4勝3敗で突破し、西地区決勝でナゲッツを4勝2敗、そしてファイナルでは東地区の覇者マジックを4勝1敗で退けて通算15回目のリーグ制覇を達成するのだが、アーテストはこのシーズンのオフになんとレイカーズにへ移籍。ブライアントとフィッシャーとはすぐにチームメートとなる運命だったが、その出会いを目前にしてロサンゼルスで荒れ狂っていた。
さてアーテストと言えば、あの有名な事件について語らねばならないだろう。それはレイカーズとのプレーオフからさかのぼること5年前。2004年11月19日の出来事だった。場所はピストンズの地元、ミシガン州デトロイト。アーテストはペイサーズの一員だった。この試合でアーテストはまずピストンズのセンター、ベン・ウォーレスと衝突。ペイサーズが97―82とリードして迎えた第4クオーターの残り45・9秒、ウォーレスがゴール下でシュートに持ち込んだプレーが発端となった。
ここで逆サイドにいたアーテストはウォーレスの後頭部を右手で叩くハードなファウルを犯してしまう。点差を考えればまったく不必要な反則。当時30歳だったウォーレスは激怒し、5歳年下だったアーテストを両手で突き飛ばした。すぐに乱闘状態。興奮するウォーレスをこれ以上、アーテストに近づけてはいけないと判断したピストンズのラシード・ウォーレスが自ら“盾”となって間に入る姿がそこにあった。この時、アーテストは記録席の横に寝そべってしまう。ウォーレスと解説者のマネをしてふざけていたというから、スポーツ選手としては最低のマナーだったとも言える。さて怒ったのは両軍の選手だけではなかった。
「ふざけた野郎だ」とピストンズのファンが今度は荒れ狂った。実名が公表されているのでそのまま紹介するが、この寝そべっているアーテストめがけてジョン・グリーンという男性ファンがコップに入っていたコーラを浴びせたのである。これで収拾がつかなくなった。アーテストは最前列付近にいた男性を“実行犯”と信じ込んで殴りかかった。ところが殴ったのは別の男性。そこにチームメートだったスティーブン・ジャクソンとジャーメイン・オニールが加わり、ファンに暴力をふるうという信じがたい愚行に走ってしまった。アーテストは暴れていた選手の中では真っ先にロッカールームに連れていかれたが、最後となったオニールは通路の上から清涼飲料水とポップコーンをかけられてびしょぬれになってしまった。
試合はこの時点で中止。NBAはその2日後、アーテストに対して残り試合の出場を停止する処分を下した。このシーズン、ペイサーズはプレーオフにも出場したので実質的に86試合の出場停止。薬物違反や刑事事件以外の処分としては史上最も重いものになった。
ただしこの事件だけがアーテストを象徴づけるものではない。やがてレイカーズのユニフォームを着る彼の心の中には善悪2つのキャラクターが混在していた。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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