菅平高原を守りたい プリンス・ライン“生みの親”の取り組み
2020年07月17日 10:30
ラグビー
年齢も出身校も異なる2人だが、日和佐は兵庫・報徳学園高時代、立川は天理大時代、夏の鍛錬期を菅平高原で過ごし、定宿だった同ホテルで寝食を繰り返した。そんな2人が同時に日本代表に選出されたのが、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ体制1年目の2012年。善戦及ばず3連敗だったパシフィックネーションズ杯やフレンチ・バーバリアンズとの2連戦を終え、ジャパンは同年7月、菅平合宿を実施。同ホテルが所有する体育館も室内練習やウエートトレーニングなどで利用された。
「日和佐はジャパンのジャージー、ハルはスパイクをお土産に持ってきてくれた。その時に“日本代表でプリンス・ライン、実現しますよ”と言ってくれたんです」
実際に記録を見返すと、その合宿前の6月17日のサモア戦で、日和佐―立川の先発ハーフ団が実現している。その後も14年5月に白星を挙げたサモア戦など計6試合で、プリンス・ラインは実現した。とはいえ2015年のW杯イングランド大会、プリンス・ラインが世紀の番狂わせへと導く逆転トライを生んだことが、大久保さんにとって何よりの喜びであり、誇り、自慢であろう。
本来なら合宿期の受け入れ準備に忙殺される7月だが、新型コロナウイルスが世界中にまん延する今年は、状況が一変した。そんな中、今年から菅平高原旅館組合の副組合長に就いた大久保さんは、さらに一つ、新たな肩書を自らに加えた。「WE ARE スガダイラーズ」プロジェクトの発起人にして、プロジェクトリーダー。地域全体で例年受け入れるチーム数は1000に及ぶが、今年は30チーム程度。キャンセルは15万人を数えた。壊滅的危機を乗り越えようとプロジェクトを立ち上げ、7月20日からクラウドファンディングを開始する。
期間は8月末まで、目標額は5000万円。集まったお金は主に旅館組合の組合費にあてることで加盟旅館の負担を軽減し、生き残りを図っていくという。「中には寄付を募ることに抵抗を示す方もいた」。当初は組合や地域で一枚岩になれないことに、戸惑いを覚えたという大久保さん。それでも7月4日にSNSで活動をスタートさせてから、あっという間にフォロワー数は4桁を超え、日々賛同や応援する声が届く。揺れていた心は固まったという。
「菅平を守ることを、たくさんの人が望んでくれているし、ラグビー界にとって価値があることだと思った。覚悟が固まりました」
大久保さんのホテルには、報徳学園高出身、代表キャップ1の梶村祐介(サントリー)が持参したという貴重なジャージーも飾られているという。「二度と来るもんか!」。プロジェクトの序文にも大きく強調して書かれたこの思いで山を下ったラガーたちは、しかしまた次の夏、山へ上がってくる。梶村もまた、同じ思いを繰り返し、日本代表まで上り詰めたはずだ。だからこそ、大切なジャージーを山の上に残してきたに違いない。
プリンス・ラインの物語と同様、グラウンドの数だけ、旅館やホテルの数だけ、そして訪れたラガーの数だけ、大小違えどさまざまな汗と涙のドラマが残されているのが、菅平高原。日本ラグビーの故郷を守ろうと、大久保さんたちは今日も東奔西走する。(記者コラム・阿部 令)
「WE ARE スガダイラーズ」プロジェクトのアカウント
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