止まらない技術の進化 世界初の“穴あき義足板バネ”誕生
2020年09月09日 08:30
五輪
世界初の革新的なアイデアを可能にしている技術とは何か。開発に携わったミズノ研究開発部の宮田美文さんと、今仙技術研究所の義肢装具士である浜田篤至さんに話を聞いた。
誰もが目を引く大胆なフォルムについて、宮田さんは「硬さを保ちながら無駄な肉を減らしたら、こういう形になりました」と語る。横幅8センチの先端部分に最大4センチの穴が設けられた目的は、軽量化と空気抵抗の軽減。「ウインドトンネル構造」と名付けられた設計は一見するとすぐに折れてしまいそうな見た目だが、従来品より強度は2倍にアップし、質量は572グラムと約15%の軽量化に成功。体積が半分になっている分、硬さを倍にすることで一般的な板バネと同等の強度を再現しつつ、トップ選手が使用する板バネとしてはかなりの軽さを実現した。
さらに穴の中央に向かって斜めにカットされた樹脂(エアロデフレクター)を後付けで周りに覆うことで、前に振り出す際の空気抵抗を約31%削減。1番荷重がかからず、空気抵抗を受けやすいとされる先端部分に穴を設けることで、振りやすさを示す慣性モーメントは約10%小さくなった。浜田さんは「1番効果のある場所を効果的に削って軽量化し、空気も流すことができている」と説明した。
9月5、6日に埼玉県熊谷市で日本パラ陸上選手権が開催された。高桑は女子100メートルに出場し、「KATANAΣ」は公式戦デビュー。タイムは13秒76と、自己ベストの13秒43には届かなかったが「走っていて無駄が無いと感じます」と好感触だった。
ミズノと今仙技術研究所の共同開発は14年8月から始まり、高桑も当初から選手として参加。これまで海外製の大きな板バネを使用していたが、身長1メートル57の高桑は扱いづらさを感じていた。「これは日本人の体格に合ったもの。やっと試合で使えるものが出てきた」と喜びを語り、今年7月から練習で使用していることを明かす。「短距離はこの板で東京パラを目指している。延期になった1年でじっくりと向き合っていきたい」。新たな技術との調和に、前向きな姿勢を見せた。
「KATANAΣ」の制作は、17年頃から開始。約3年間で試作品は30~40本に及ぶ。高いもので1本数百万円をかけて作り上げた試作品の多くは、2歩進むだけで折れてしまうほどもろかった。19年に原型が完成し、今年春から高桑に使用してもらう予定が新型コロナの影響でお披露目が遅れた。今後の課題は専用のスパイクソールの開発。来年4月30日には販売が開始される。
パラスポーツ界の競技力向上とともに、テクノロジーの発展も進む。男子走り高跳びで東京パラ内定の鈴木徹(40=SMBC日興証券、義足T64)からは、コーナー部分の助走強化を目指して先端部分が三つまたに分かれた板バネをオーダーされているという。
「形にこだわらず、これからいろんなモデルに今回の技術をどう乗せていくかが課題になる」。そう熱く語る浜田さんたち技術者の飽くなき探究心は、とどまることを知らない。(記者コラム・小田切 葉月)
おすすめテーマ
2020年09月09日のニュース
特集
スポーツのランキング
-
レイカーズが2勝1敗 西地区準決勝で一歩リード ジェームズが36得点&4ブロックと大活躍
-
リーグ最高勝率のバックス散る G・アデトクンボ欠場 ヒートは6季ぶりに東地区決勝へ
-
伊達公子さん 全米4強入り大坂なおみに「すべてにおいて自信を持ってプレーしている」
-
女子ゴルフ 富士通レディースは無観客で開催
-
大坂なおみ、危なげなく4強「ずっとポジティブにプレーできた」
-
大坂なおみ4強 3戦全敗だった難敵を圧倒「リベンジできました」 準決勝は「ベストを尽くします」
-
大坂なおみ ストレート勝ちで2年ぶり4強!過去3戦全敗の相手を圧倒「リベンジできた」
-
止まらない技術の進化 世界初の“穴あき義足板バネ”誕生
-
奈紗 カギは暑さへの対応「上手く18ホール集中できたら」10日からANAインスピレーション
-
横峯さくら 第1子妊娠!来年2月出産予定、後半には米ツアー復帰目指す
-
横峯さくら 新たなチャレンジ!J2東京Vと組みゴルフチーム設立「私の夢でもあった」
-
日本女子ゴルフ 出産後Vは過去5人
-
19歳・笹生 愛超え最年少Vだ!初メジャー開幕へ堂々「自分は変わらない」
-
小祝 余裕の勘違い!?日本女子プロ選手権開幕へ自然体「メジャーだからモチベーションが上がるとかない」
-
松山 15位でシーズン終了 17日開幕全米OPへ手応えも「だいぶ良くなってきた」
-
錦織負けた…1年ぶり復帰戦で逆転許す 27日開幕全仏OPに向け課題
-
大坂Vへ自信!フィセッテ・コーチ「マスクがエネルギー」 左太腿痛でも「状態は良い」
-
失格のジョコビッチ 嫌がらせやめて!女性線審にファンからメッセージ殺到で呼びかけ「彼女は悪くない」
-
27日開幕全仏OPテニス 有観客開催へ!前回女王はコロナ感染懸念から欠場表明
-
千代の富士「守り神のように」 JR両国駅で優勝額除幕式、親交あった吉田沙保里さんらも出席
-
照ノ富士 2場所連続Vへ意欲「どれだけ動ける筋肉にするかを意識している」
-
女子セブンズ・リオ主将の中村 東京五輪後に第一線退く「一つの区切りと考えている」
-
東京五輪来夏開催へ 9日のIOC理事会で準備状況を報告
-
車いすバスケ 選手資格再審査 女子8人のうち1人が不適格と判定
-
五輪パラ組織委 NPBとJリーグから勇気「スポーツがある景色を取り戻そうとしている」