陸上中長距離の星 田中希実の父に聞く「親子鷹の極意」 型破りの娘を育むものとは
2020年10月14日 05:30
陸上
仕掛けどころが読めないレース運びもファンを引きつける。同大生ながら部に入らず、選手2人のクラブチームに所属する型にはまらないスタイルも魅力を増大させる。コーチは、父の健智さんだ。
「800メートルも5000メートルも、今できることを一生懸命やりたい。その点は親子で似ているところです」
1種目に専念するのが一般的だが、父娘の辞書にはそれはない。将来的なマラソン参戦はあっても、当面は世界の壁が厚い中長距離で勝負。「日本人が通用しないと言われる距離。その固定観念を打ち破りたい」という信念で幅広く突き進む。
進路や走る距離に限らず、自由な発想を大切にして育ててきた。兵庫県小野市の自宅周り2キロを、小5、6時に毎日走ったのは、本人の負けず嫌いで始まったこと。厳格な体重管理が珍しくない女子長距離で、栄養バランスを考えながらも、娘が望むならラーメンもハンバーグもOKだ。
「我慢するから反動が出るのです」
ただし、体調には目を光らせる。現役時代は3000メートル障害で日本選手権に出場し、北海道マラソンに2度優勝した妻・千洋さんの練習も見てきた。肉体的な限界を迎え「根性で走っている状態」なのか、余力を残すのかを見極めながら厳しいメニューを課す。大きな故障がないのは、トラック内外の絶妙のサジ加減がなせる業だ。
意見はよくぶつかる。しかし、その都度話し合う。「本音をぶつけるから、落としどころが見えてくる」。田中家は一家がリビングで過ごす習慣がある。会話が自然と生まれる。思春期も今も関係が変わらないのは、家庭内の風通しが良いからだろう。競技でケンカをしても、2人で博物館や美術館に出掛けるほど仲が良い。
娘が高校に入る前に、「一志走伝」という造語を贈った。走る姿で、人々の共感を呼んでほしいという願いが込められている。言葉通りの道を進んでいる。
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