内村航平、種目別金メダルは通過点 東京五輪後も現役意欲
2020年10月14日 05:30
体操
「五輪の種目別には縁がないのかなぁと思いつつ、結局、縁はあったんじゃんって感じですよね」
五輪種目別の最高成績は12年ロンドンの床運動での銀。鉄棒ではロンドン、16年リオデジャネイロと予選で落下し種目別決勝の舞台にすら立てなかった。「金メダルを獲りたいか獲りたくないかと言えば、獲りたい。でも、それよりも五輪の舞台で決勝でという思いがある」。スペシャリストが集う大一番での演技を、誰よりも内村自身が心待ちにしている。
競技人生を左右する大きな決断を下したのは、約8カ月前だった。
深刻な両肩痛から昨年は全日本選手権で予選落ちを喫し、日本代表から落選。患部は完治に遠く、個人総合の6種目を継続してトレーニングすることは困難だった。プロ転向と同時に二人三脚で歩んできた佐藤寛朗コーチの「苦しみながら体操をやる航平さんの姿を、もう見たくない」という言葉も胸に響く。15年に世界選手権を制した鉄棒で、東京を狙うと決めた。
9月22日、スペシャリストに転生したキングの姿は、群馬・高崎アリーナにあった。
新型コロナウイルスの感染予防を徹底し、有観客で開催された全日本シニア選手権。内村が登場すると、場内の空気は確かに変わった。演技開始から13秒、H難度「ブレトシュナイダー」に実戦で初めて挑み、バーをつかんだ。その後、車輪につなげられずに減点となった大技には悔しさと手応えが交錯する。
「技として成立しているという意味では成功だけど、僕の中では失敗に近い。あの失敗は初めて出たので“ああ、なるほどな”と。次にどうなるかっていうのが楽しみ」
体操選手として大きな変化を遂げた今、競技人生の終着点に対する考えもまた、変わりつつある。
「前はいい時にスパッとやめた方がいいと思っていた。でも、まあ、理想と現実は違う。今は、ここまでやったら終わりというよりは、その場その場に応じてって感じになっている。東京が区切りってこともない」
体操ニッポンの大黒柱として、個人総合と団体総合で肉体と精神を酷使。かつては「東京五輪じゃなかったら、現役を続けていない」と明確に引き際を意識していた。
だが、鉄棒専念による両肩への負担軽減と自身の伸びしろが、東京五輪をラスト舞台とした「引退」の2文字を頭から消そうとしている。
「ブレトシュナイダーも習得して、まだいけそうだな、進化できそうだな、と思う」
30歳を超えてなお、競技を追究する姿勢は不変。種目別の金メダルすら通過点にすぎないのかもしれない。
「なんか、突き詰める癖があるので。そうするとやめるのも、もったいないかな、とか考える。誰も知らないところまで知っていた方が、自分が伝えていく立場になった時に絶対いいよな、って」
鉄棒だけではなく体操のスペシャリストになるため、キングの歩みは止まらない。
《種目別出場枠は未確定》東京五輪の団体総合の枠は4。個人総合は団体代表の選手が戦う。内村が狙う種目別の出場枠はまだ確定していない。内村が出場しない来年の個人総合W杯シリーズ、アジア選手権で個人の国別出場枠を獲得するのが第一条件。個人枠は最大2で、選考基準は未定ながら、来年の国内選考会で代表を争う。鉄棒で最大のライバルは宮地秀享(25=茗渓ク)で、全日本シニアではI難度「ミヤチ」などを決め、内村の14.200点を大きく上回る15.366点で優勝している。
《今年は中止の冠大会「来年以降やりたい」》内村は来年以降の冠大会開催にも意欲十分だ。自身の名を冠した「KOHEI UCHIMURA CUP」を今年3月18日に実施する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止に。「今年できなかったので、もちろん来年以降やりたい」とし、「個人総合の選手だけでなく、みんなにチャンスがあってもいいかなと考えている。そっちの方が見応えがある」と話していた。
◆内村 航平(うちむら・こうへい)1989年(昭64)1月3日生まれ、長崎県出身の31歳。3歳で体操を始め、五輪初出場の08年北京大会で団体総合、個人総合で銀メダル。09~16年に個人総合で世界大会8連覇を達成し、16年12月に日本体操界初のプロに転向した。1メートル62、52キロ。
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