稲見萌寧を銀メダルに導いた奥嶋誠昭コーチの二つの「気付き」
2021年08月10日 12:53
ゴルフ
快挙の要因はいくつもあるが、五輪でキャディーを務めた奥嶋誠昭コーチの存在を外すことはできない。奇跡とも呼べそうな「シンデレラストーリー」が完結した背景には、奥嶋コーチの二つの「気付き」があった。
稲見は19年に国内ツアー歴代最高のパーオン率を記録したショットメーカーだが、パットに課題があった。
奥嶋コーチは「ラインも読めるし、距離感もある。でも自分が思った通りに打ち出せていなかった」と振り返る。右手が左手より高い位置になるクロスハンドで握るため、自然と右脇が締まる。それが腕の動きに影響を与えているように見えた。
そこで今年初戦の前、右脇を拳一個分あけるよう提案した。修正するとストロークがスムーズになり、球の転がりも良くなった。
改善されたパットは初戦から12戦5勝という驚異的な快進撃を支え、五輪出場権獲得の鍵になった。
今年5勝目を挙げたのは5月下旬の中京テレビ・ブリヂストン・レディースだった。翌週も6位に入った。しかし、この頃からショットに違和感があった。もともと落ち際で右に曲がるフェードを持ち球にしているが、左に引っかけるミスが出るようになっていた。
奥嶋コーチはアイアンのソールに残る痕跡に目を凝らした。「球を打った時にソールに土が付く。その線が斜めなんです」。普段なら線はリーディングエッジと直角に入る。スイングにずれが生じていることは明白だ。つぶさに観察すると、始動の際に少し頭が傾くことに気付いた。
好成績が続く中、スイングを変えるのはリスクが大きいし、稲見も混乱する可能性がある。アドバイスはシンプルにした。「始動を真っ直ぐ上げる。テークバックを上げる時に頭を動かさない」。
ショットの修正には少し時間がかかり、6月下旬のアースモンダミン・カップ、翌週の資生堂レディースで2試合連続予選落ちした。それでも五輪2週間前、奥嶋コーチは「底は抜けた。ちょうどいいタイミングだった。本人は“少しましになった”としか言わないけど、僕は少しは安心しています」と話していた。
稲見は五輪でショットの正確性に関して高い数値をマークした。4日間を通じたフェアウエーキープ率は全体1位の85・71%、パーオン率は全体8位の76・39%だった。
五輪終了後、稲見はSNSに奥嶋コーチへの感謝の気持ちをつづった。「これからも上を目指してご指導よろしくお願いします。ありがとうございました!!」。
18年12月の出会いから二人三脚で積み重ねた努力は銀メダル獲得という形で結実した。しかし、稲見も、奥嶋コーチも、歩みを止めるつもりはない。(スポーツ部専門委員)
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