記者から内村航平へ 贈りたい2つの言葉
2022年01月11日 17:33
体操
あん馬で2度落下しながら猛烈に追い上げ、いつのまにか銀メダルを獲得していた08年北京五輪。「筋肉は気合でつけるもんっスよ」。当時、19歳。不敵な笑みが似合う少年だった。
東日本大震災が発生した11年、東京で開催された世界選手権で史上初の3連覇を達成。12年ロンドン五輪では、記者人生で初めて五輪金メダルの原稿を書いた。
5種目を終えて0・901点差という絶望的な状況から、鉄棒で鮮やかに逆転戴冠した16年リオデジャネイロ五輪。美しい敗北をどう書くかを考えた自分を恥じ、興奮して記者席のテーブルを叩いた記憶も鮮やかに残る。
左足首を痛めて途中棄権した17年世界選手権の予選では、松葉杖をつきながら現れた取材エリアで「申し訳ないっす」と言われた。「いや、謝るなよお…」と返すのが精いっぱいだった。
昨夏の東京五輪は予選落ち。こちらのショックも大きく、自己最悪と言っていいほど筆は進まなかった。世界選手権の完璧な着地には、何年かぶりにリアルに鳥肌が立った。そして、引退発表の日を迎えた。
初めて言葉をかわしてから、14年以上が経過。キングと称される偉大なアスリートの現役生活を最後までカバーできたのは、幸運だったと実感している。
今、何か言葉をかけるなら「ありがとう」がふさわしい。
内村に限らず、アスリートに「頑張れ」とは言わない主義を貫いてきた。取材すればするほど、頑張っているのが分かるから。いつだったか、そんな話を内村にすると、「いや、僕らアスリートは『頑張れ』と言われているうちが華なんすよ」と笑った。
故障を抱え苦しい闘いが続いた近年は、演技を見るたびに心の中で唱えていた。「頑張れ。内村、頑張れ」と。それでも、直接、この言葉を伝えることは、はばかられた。
今後は普及活動や指導など体操界に軸足を置く一方で、競技の枠を越えた活動も展開するだろう。美しい第2のキャリアが待っているに違いない。
新たな一歩を踏み出すキングへ。今だからこそ、この言葉を贈ろう。
「頑張れ!」
(杉本 亮輔)
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