テキサスの乱射事件に揺れ動く米国 悲劇の連鎖はくい止められるのか?
2022年06月01日 11:09
スポーツ社会
その一方で、トランプ氏が顔をそむける「厳しい銃規制が確立した社会作り」についてバイデン大統領も明確な答えを持っていない。それが動詞と目的語が存在しないわずが2語の回答であり、そこに乱射事件が絶えない米国の暗部が見え隠れしている。
18歳のサルバドール・ラモス容疑者が82歳の祖母の顔面に発砲して射殺したあと、ピックアップ・トラックで小学校に向かい、排水溝に車を突っ込んで運転席を飛び出たのが5月24日の午前11時28分。すでに手にしたライフルで周囲にいた2人の男性に発砲しており、そこからロブ小学校に突入して乱射するまでに要した時間はわずか4分間。小学校の職員にとっては防ぎようのない事件だった。
警察が校内に入ったのは午前11時35分。しかし教室にカギがかかっているととして廊下で待機したために、ラモス容疑者は午後12時21分までライフルを発射していたとされている。その間に9歳から11歳までの児童19人と44歳と48歳の女性教員2人が死亡。警察当局は「判断が間違っていた」と対応を誤ったことを認めたが、乱射事件に即座に対応できるユニットを持っている警察は地方に行けば行くほど少ないのではないかと思う。
乱射事件当日、同じテキサス州のダラスでNBAプレーオフの西地区決勝シリーズに臨んでいたウォリアーズのスティーブ・カー監督(56)は試合前の会見で「バスケットボールの話はしない」と前置きした上で「ここから400マイル(約640キロ)離れた場所で14人の子ども(その後19人)と1人の教師(その後2人)が殺された。もううんざりだ。もしきょうの出来事が皆さんの身に起きたらどう感じるだろうか?」とテーブルを拳で叩きながら怒りに満ちた表情で事件について言及。「沈黙しているときじゃない。何かをするべきときなんだ」というコメントはNBA担当記者ではなく、まさに米政府に対して向けられていた。
レバノン・ベイルート出身のカー監督は、大学教授だった父マルコムさんをイスラム過激派に殺害されており、米国内で同じような事件が起こるたびに改善を求めてきたが依然として事態は変わらぬまま。米国の銃社会が引き起こす悲劇に対し、NBAの監督としてではなく1人の人間として“社会の変革”を訴えた。
米国では2012年にもコネティカット州の小学校で20人の児童が殺害される乱射事件が発生しており、レイカーズのレブロン・ジェームズ(37)も「我々は最も安全であるべきはずの学校で子どもたちを傷つけ続けている。そう、学校でだ!」と度重なる学校での乱射事件に憤りをぶつけていた。
ロブ小学校での乱射事件当日の翌日からは夏休み。亡くなった48歳の教員、イルマ・ガルシアさんには4人の子どもたちがいるが、イルマさんと24年間連れ添った父ジョーさん(50)も事件から2日経過した26日、葬儀に参列して自宅に戻ったあとに心臓発作で急死しており、家族にとってはまさに二重の悲劇となってしまった。
10歳のアリシア・ラミレスさんはサッカーが大好きで、11歳のレイラ・サラザールさんはランニングと水泳、そしてダンスに熱中。そんなスポーツが大好きな少女たちが、なぜ夏休みの前日に学校で命を落とさなくてはいけないのか?事件原稿とカー監督の記事を書いていると、やりきれない気持ちになった。だからバイデン大統領にはぜひ「WE WILL」のあとに続く言葉を早急に示してほしい。次の悲劇が起こる前に…。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。
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