米農家に転身 男子バレー前監督がパリで頂点目指す現チームにエール「良い米に育ったんじゃないかな」
2024年07月03日 05:30
バレーボール
そして現役時代はレシーブの名手でフランス代表としてソウル五輪に出場し、指導者として母国をアテネ五輪に導いたブラン氏に「守備の指導に定評があり、僕が考えていたストラテジーとも合う」と白羽の矢を立てた。ストラテジー(戦略)とは「ブレーク率を上げる」。つまりサーブ権を持つ場面の得点率を上げることだ。そのために必要なのが「守備とサーブの強化」だった。
順風満帆だったわけではない。ブラン氏は当初「ブレークよりサイドアウトが重要」と譲らず、選手起用や指導法でもぶつかった。「何十回も、何百回も議論した。議論というかけんかだね」。負傷した選手を出場させようとするブラン氏を止めてもめたこともある。「頑固で人の言うことを聞かない。胃に穴が開く思いをしたし、本当に穴が開いた」と苦笑いした。
中垣内氏は自身が一歩引いてバランスを取り、ブラン氏のリーダーシップを生かし、選手がプレーしやすい環境を整えた。2人が育てたチームは東京五輪で29年ぶりに準々決勝に進んだ。「最低限の仕事は果たせたかな。フィリップは日本バレー界の黒船。率直にものを言って日本を変えてきた。フィリップだからここまで強くなった」。相棒と過ごした刺激的な日々を思い返し感慨深げだった。
パリ五輪メンバーの大半が中垣内氏の愛弟子だ。中でも石川は特別な存在だった。
初めて見たのは星城高1年の時。「身長は高くなくて線は細いけど、器用な選手」というのが第一印象だった。その後、石川は中大に進学し、14年日本代表に初選出されると、19歳で出場した15年W杯で大ブレークした。テレビ観戦した中垣内氏はハイボール(高いトス)を難なく叩ける能力に魅了された。
日本代表のエース、主将を担った経験を持つ中垣内氏は、17年の監督就任当初から石川中心のチームで東京五輪に臨むことを決めていた。「石川をチームの中心にすることは17年から決めていた。当時はまだキャプテンは早いかなと。人間的な成長を待ちたいと考えていた」
そして「満を持して」21年2月、イタリアにいる石川に電話で主将就任を打診した。五輪直前だが、迷いはなかった。「“キャプテンだからね”と言ったら“はい、やらせていただきます”とすぐに答えてくれた」と振り返った。
監督時代、技術的な指導を行った記憶はほとんどない。「メンタルや振る舞いについて言った記憶があるけど、自分で学んでいける選手なので技術的な指導は必要なかった」。イタリアで挑戦を続ける石川をリスペクトしており「バレーIQが高く、クリエーティブなプレーをする選手としては世界屈指。世界一の選手になるべく、自分の可能性に挑戦する姿勢は素晴らしい」と期待を込めた。
中垣内氏は東京五輪後の21年9月、アジア選手権を最後に代表監督を勇退した。その後、Vリーグ堺(現日本製鉄堺)の部長を歴任し22年6月に退社。家業の農業を継ぐため故郷の福井に戻った。
同年10月には福井工大の教授に就任し、同大や系列の高校、中学のバレーボール部で総監督も務める。平日は大学で講義を行ったり、バレーボールの実技を教えたり。休日は約33ヘクタールの広大な田んぼで農作業にいそしむ。二足のわらじを履き、忙しい毎日を送っており「本当に大変だけど人間は役割を持って生きていけたら幸せ。頑張るだけだよ」と充実感をにじませる。
ブラン氏と17年から始めたチームづくりは今夏に集大成の時を迎える。米作りに例えて「苗を集めて、田植えしたのは自分なのかな。ただ育てたのも、最後に刈り取るのもフィリップ。良い米に育ったんじゃないかな」と満足そうに話した。
52年ぶりのメダル獲得に期待がかかるパリ五輪をどんな心境で見守るのか。中垣内氏は「おいっ子たちを見ている親戚のおっちゃんの気持ち。よく知っているけど、家族ほど責任はない」と笑った。そして「メダルを獲ったら一人一人に米を贈るよ。うん、そうしよう」とうなずいた。おいを見守るような優しい表情だった。 (福永 稔彦)
◇中垣内 祐一(なかがいち・ゆういち)1967年(昭42)11月2日生まれ、福井県出身の56歳。現役時代は筑波大、新日鉄(のちの堺、現日本製鉄堺)でプレー。89年に日本代表に初選出され、92年バルセロナ五輪で6位入賞に貢献。94~96年には主将を務めた。04年引退。05~09年堺監督、11~13年男子日本代表コーチ。17~21年に男子日本代表監督を務め21年東京五輪8強。22年、福井工大スポーツ健康科学部教授に就任。現役時代の愛称は「ガイチ」、サイズは1メートル94、94キロ。
《五輪前「これからの方が大事」》
○…ネーションズリーグをテレビ観戦した中垣内氏は「銀メダルは凄い。本当に強いチームになった。今年はディフェンスが凄く良いし、ブロックも良くなった」と愛弟子たちの快挙を称えた。一方で前指揮官らしく、パリ五輪を前に油断が生まれることを危惧。「弾みはつくだろうが、これからの方が大事。慢心してほしくない。しっかり練習して臨んでもらいたい」と引き締めることも忘れなかった。
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