「空白の一日」が巨人と鹿取新GMを結びつけた
2017年06月16日 11:40
野球
巨人では初めてとなる現場経験者のGM就任。鹿取氏と巨人を結びつけたのは1978年、球界を大激震に巻き込んだ「江川事件」だった。
法大で通算47勝を挙げた怪物・江川卓は前年のドラフト会議でクラウンライター(現西武)から1位指名されながら入団を拒否。渡米して南カリフォルニア大(USC)で打撃投手を務めるなどして1978年のドラフトを待っていた、はずだった。
ところが、江川はドラフト前々日の11月20日に緊急帰国。翌21日に巨人と電撃契約を結んだ。当時の野球協約では、ドラフト会議で交渉権を得た球団がその選手と交渉できるのは翌年のドラフト会議の前々日までとされていた。
つまりドラフト会議前日はフリーの立場でどの球団とも自由に契約できる。いわゆる「空白の一日」をついて契約したのである。
しかし、セ・リーグの鈴木龍二会長はこの契約を無効として選手登録を却下。巨人は態度を硬化させ、「リーグ脱退。新リーグ結成」をちらつかせて22日のドラフト会議をボイコットした。
巨人不在のドラフト会議で江川は4球団から1位指名され、抽選の末に阪神が交渉権を獲得。最終的には江川はいったん阪神と契約し、小林繁とのトレードで巨人に入ることになるのだが、さて鹿取氏である。
明大で、中日に1位指名される高橋三千丈との二枚看板として活躍し、東京六大学通算21勝をマーク。卒業後は社会人野球の日本鋼管に入社が決まっていた。
ところが、ドラフトをボイコットして新人を1人も獲れなかった巨人の沢田幸夫スカウトから島岡吉郎監督に「何とかしてください」と泣きが入る。沢田スカウトは明大OBだった。鹿取氏は御大に呼ばれた。
「ジャイアントへ行け」
ジャイアンツではない。ジャイアント。御大の指示には逆らえない。日本鋼管入社を辞退し、ドラフト外で巨人に入団したのである。
巨人では主に中継ぎとして活躍。王貞治監督(現ソフトバンク会長)が指揮を執った1984年から5年間は登板試合数48、60、59、61、45と投げまくった。
5球投げれば肩ができるというサイドスロー。どんな緊急指令にも嫌な顔一つせず、黙々と任務をこなして「鹿取大明神」とあがめられた。
ところが、藤田元司監督が復帰した1989年は登板試合数が21と激減する。藤田監督は「投手は先発して完投するもの」という主義。この年、11試合連続完投勝利のプロ野球記録を達成するなど「ミスター完投」斎藤雅樹(現巨人二軍監督)を覚醒させた。
完投が増えれば、救援投手陣の出番は減る。鹿取氏は近鉄との日本シリーズを控えた練習が行われた多摩川で、藤田監督からこう言われる。
「巨人に残っても今年と同じような使い方になる。もうひと花咲かせたかったら出てもいいぞ」
鹿取氏は「出してください」と答え、泣きながら車を運転して多摩川を後にした。
その後、チーム事情が変わり、「残る気はないか?」と聞かれたが、土佐のいごっそうは「ありません」ときっぱり答えた。
西岡良洋との交換トレードで西武に移籍。森祇晶監督から抑えを任され、移籍1年目の1990年には3勝1敗24セーブで最優秀救援投手賞に輝いた。この年から始まったV5に貢献。ひと花もふた花も咲かせた。
現役引退後の1998年、二軍投手コーチとして巨人に復帰。2000年には一軍投手コーチとして日本一に貢献した。いったん退団して2001年には渡米し、1Aベロビーチ・ドジャースのコーチを経験。2002年は原辰徳新監督の下でヘッドコーチに就任した。
その後、2006年の第1回WBCで日本代表投手コーチを務め、2014年からは侍ジャパンU―15の監督として指揮を執った。
選手、指導者としての経験は申し分ない。豊かな識見、人脈をチーム編成にどう生かしていくか。
「若い選手が出てこなかったところに問題がある。プラニングを立て、いいスカウティングをして、そこから育てていきたい」
緊急登板はお手のもの。その手腕に期待したい。 (特別編集委員)
◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年、岡山市生まれ。野球記者歴36年。1980年代は主に巨人と西武を担当した。
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