北海元エース田原藤太郎氏 53年慶応戦 悔いなしノーヒット2ラン
2018年07月31日 10:42
野球
田原氏「今思えば、あの試合は負けて良かったのかな、と。こういう“珍記録”をいまだに取り上げてもらえる。負けて話題にしてもらえるんだから、私は幸せ者ですよ。でもね、あの試合はノーヒットなんて意識する余裕もなく、ただ黙々と投げただけだった」
当時「北の怪腕」と評された田原氏は決め球のシュートが面白いように決まり、慶応打線に安打を許さなかった。4奪三振で2四球。低めへの制球がさえ渡った。
田原氏「私の人さし指は短くて強くてね。それで内角へ自然とシュートした。見逃せばストライク、打てば詰まって内野ゴロ。バットは5、6本折ったと思う。ほとんど低めにズバズバ行った。でも、センバツ(53年、0―3伏見)といい、私は甲子園で得点に縁がなかった。一緒に酒を飲むと、捕手だった小野田光成が“(失点につながるエラーをした)俺のせいだ”って言うけど、私は何とも思っていませんよ」
敗れてもいまだに“破られない記録”を残した田原氏。学生野球の父・飛田穂洲氏が「大会屈指の投手」と評したほどだった。そんな田原氏に大きな影響を与えたのが、北海中(現北海)から国鉄(現ヤクルト)、中日でプレーした兄・基稔氏(故人)だった。
田原氏「北辰中の3年生のとき、兄が国鉄入りしてね。札幌駅に見送りに行って“兄ちゃん、俺も(プロへ)行くからね”って約束した。だから野球を辞めたくても辞められなかった。(北海野球部長だった)飛沢(栄三)先生に誘われて入ったけど、北海には全道から200人くらいの新入部員がいて、初日はグラウンドにも入れてもらえない。家に帰って押し入れで寝てたら、母が“辞めていいよ”と。でも、兄との約束がある。とにかく名前を覚えてもらおうと必死にやった」
兄・基稔氏の背中を追い、田原氏はすぐに頭角を現した。1年夏から試合に登板。名門・北海の厳しい練習に耐え、押しも押されもせぬエースへ成長した。
田原氏「物がない時代でね。北10条の自宅から歩いて学校に通って、通学手当で“びっくり焼き”を買って食べた。練習もグラウンドで水を飲めない時代だから。夏は1日800球の投げ込み。150球くらいで疲れ、途中で水をかぶって300球を超えると、力が抜けてベストのフォームになる。人よりたくさん投げている。だから負けない、と思って投げていましたね」
65年前の夏。田原氏の脳裏に残るのは、ノーヒット2ランの思い出だけではない。
田原氏「大阪まで行くのが大変だった。札幌から函館まで汽車で5時間。青函連絡船に乗って、青森からまた汽車。大阪に着いたらみんな顔が煤(すす)だらけだった。米3升と洗濯せっけん、ボールを縫うための針と糸、そんなものまで持参でね。試合に負けた翌日、バスで京都に行ったとき、気づいたら右肩が上がらなかった。それほど必死に投げてたんだね」
◆第35回全国高校野球選手権大会(1953年) 23校が出場し、まだ南北に分かれる前の北海道代表は北海1校だった。同大会には優勝した松山商(愛媛)のエースで中日入りした空谷(後に児玉)泰をはじめ、東筑(福岡)の仰木彬(元近鉄監督)、浪華商(大阪)の片岡宏雄(元ヤクルトスカウト部長)ら好選手が出場。この大会からNHKがテレビの全国中継を始めている。
≪無安打無得点は松坂らが達成≫選手権大会でのノーヒットノーランは22人が計23回(海草中・嶋清一は39年の準決勝、決勝で達成)記録している。最後の記録は98年の決勝で達成した横浜・松坂大輔(現中日)。57年の早実・王貞治(現ソフトバンク球団会長)は延長11回での記録だった。84年の境・安部伸一は法政一を延長10回2死までノーヒットに抑えながら、唯一許した安打がサヨナラホームランだった。
【取材後記】記録に残らない“快記録”を残した田原氏は、北海から54年に中日へ入団。当時、国鉄から中日に移籍した兄・基稔氏と1年間だけ同じ中日で兄弟そろってプレーしている。そんな田原氏の名刺の裏には「長嶋茂雄ホームランスポンサー」とある。巨人戦で長嶋氏(現巨人終身名誉監督)に本塁打を打たれているのだ。プロ6年間で通算4勝。プロ初勝利は国鉄戦で、400勝投手の金田正一氏(現評論家)が相手投手だった。「金田さんには後楽園球場で大ホームランを打たれているんですよ。長嶋さんと金田さんに打たれたホームラン。私にとっては名誉であり、誇りですよ」。田原氏は懐かしそうに笑った。甲子園でもプロでも思い出深い“記録”を残している田原氏。取材に応じていただいたご自宅で、尽きない野球の思い出話に時間を忘れて聞き入った。(秋村 誠人)
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