痛恨の「立ち話」会見――「退任」阪神・金本監督の傷心
2018年10月13日 18:00
野球
2年前の85年、リーグ優勝、初の日本シリーズ制覇と「天国」にいる気分を味わった吉田だが、この年はまさに「地獄」だった。一時はシーズン100敗ペースで負け続け、最終勝率3割3分1厘は今も球団史上ワーストとして残る。マスコミの論調やファンの批判も頂点に達していた。
最終的に解任決議となり、甲子園の球団事務所で球団社長・岡崎義人から結果を伝えられた吉田は「潔く退団させていただきます」と身を退いた。激震の後とはいえ、背後には球団旗が掲げられ、岡崎と並んでのれっきとした記者会見だった。
そんな「一番長い日」に比べれば、今回の監督・金本知憲の退任は「一番短い日」だったかもしれない。
10日、甲子園球場での今季最終戦(対DeNA)終了後、球団社長・揚塩健治が辞任勧告(解任通告)を行った。翌11日の辞任発表。金本から辞意を伝えられ、「もう少しがんばってみてはどうか」と慰留したという揚塩が、その時間を問われると、言葉に詰まった。「そんなに長くは……30分とか1時間ではありません」
電鉄本社の指示を受けての解任で、金本続投で動いていた球団はさすがにあわてた。11日の金本退任会見は甲子園の球団事務所プレスルームで、一人きりの立ち話だった。記者30人ほどが取り囲んで話を聞く「囲み」と言われる簡易会見だった。混乱を避けるためか、テレビや写真撮影はNGという何とも質素なものだった。
「あんな形での会見となったのが何とも情けなく、金本監督に申し訳なくて……」と、ある球団職員が嘆いていた。何しろ準備ができていなかった。会見場の設定もできずに発表となったのだ。
同時にオーナー・坂井信也(電鉄本社相談役)も辞任しており、15日に予定されていたオーナーへのシーズン終了報告会もなくなった。金本はそんな形で阪神を去るのである。
「これじゃ昭和じゃないですか。もう平成も終わろうとしているのに」との球団内の声が聞こえてきた。その通りだ。本社介入による強引な監督人事は昭和のころから変わっていない。
ただし、もっとうまくやろうと思えばできたのではないか。金本退任という決断の善悪はさておく。本社の強権もここではおく。監督の退任というのは、それはそれで球団としての判断である。いずれにしても、もっと早くに動いていれば、退団の花道は用意できた。
金本は球団の続投方針に沿って来季への意欲を示してはいたが、一方で不成績の責任は痛感していた。監督の座に恋々とはしていなかった。「身を退いてくれ」と言われれば潔く退いただろう。たとえば「クライマックスシリーズ(CS)進出を逃せば」「最下位に落ちれば」と条件をつけたうえで、球団として動いていれば、スムーズな退任は可能だった。
「去り際が大切です。ウチは失敗を何度もしていますから」と別の職員が嘆いていた。
江夏豊、田淵幸一、掛布雅之、岡田彰布……スター選手たちの阪神退団時の寂しさは心の傷として残っている。
たとえば、あの「深夜のトレード通告」で西武に移籍となった田淵は「家を引き払って、東京行きの新幹線を待つ新大阪駅のプラットホームが忘れられない」という。78年暮れのことだ。「阪神に入団した時は大勢の報道陣に囲まれていたのに、去る時は独りっきり。ビルが建ち、変わってしまった駅周辺の風景を眺めていたよ」
タイガースへの愛憎こもごもの記憶として残っている。時間がいやしてくれたとはいえ、今でも時折痛むことだろう。
ただ、監督の場合は先に書いた87年の吉田のように、形はともあれ、正式な形で会見は行ってきた。
前監督・和田豊は2015年10月13日、電鉄本社でオーナー・坂井信也同席で退任会見を開き、花束を贈られた。
最近では岡田彰布も真弓明信も辞任会見を開いてきた。皆、オーナーから慰労され、ひな壇に座って語り、重圧から解放されたように、時に笑顔を浮かべていた。
村山実が辞任、中村勝広が就任する1989年10月18日には、両者がひな壇で握手を交わすという例もあった。
金本にはそんな場もなかった。そして今季最終戦だった13日、敵地ナゴヤドームでの中日戦で最後の指揮を執った。試合後、静かにユニホームを脱ぎ、帰りの車に乗り込んだのだった。
監督として最後の甲子園となった12日の練習の合間、金本に「心身ともに健康というが、心の傷みがいえるにはしばらく時間が必要だと思う。今はまず、体を大切に」と伝えておいた。金本は「はい」と笑っていた。=敬称略=(編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大。1985年入社。アマ野球、近鉄、阪神担当から野球デスクを経て、2001年ニューヨーク支局で大リーグ担当。03年編集委員(現職)。
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