不変と永遠の輝き――甲子園球場の初日の出
2019年01月01日 08:34
野球
静寂のなか、時折鳥たちの声がする。マウンド上にはしめ飾りが立てられていた。甲子園は厳粛な空気のなか、新年を迎えた。
スコアボードは工事中だ。大型スクリーン「オーロラビジョン」を付け替えている。3つに分かれていた画面の区切りをなくし1面化する。広さが1・6倍になり、より迫力ある映像を映し出せるようになるそうだ。
スコアボードは現在、グラウンドを守る阪神園芸の甲子園施設部長、金沢健児の原点と言える場所だ。高校生だった1983(昭和58)年夏、アルバイトとして、まだ手書きだったスコアボードで得点掲示などを手伝った。
金沢は夏の高校野球が100回大会の節目を迎えた昨年夏、「いつもと同じ気持ち、普段通り臨みます」と話していた。「99回も100回も101回も変わりません。選手にとっては、何回大会だろうが、変わらぬ大切な試合です。常に最高の状態にするのが僕たちの仕事ですから」
いつも通り、普段通りを大切にする。職人気質を見るようである。
甲子園球場で初日の出を拝み、撮影するようになって7年目を迎える。その美しさに身が引き締まる。
それはこの大球場ができた当時から変わらぬ風景なのだろう。甲子園球場が開場となった1924(大正13)年8月1日の空も<素晴らしく美しかった>そうだ。<すがすがしい朝を迎えた>と、球場建設を決断した阪神電鉄専務(当時)、三崎省三の四男・悦治が書いた小説『甲子(こうし)の歳』(ジュンク堂書店)にある。
当日は午前7時から「甲子園大運動場開き」が行われた。三崎は一塁側内野スタンド最上段に立ち、朝日を浴びる球場を眺めたという。同じ場所から見る95年目の朝も、変わらぬ美しさに満ちていた。
平成最後の初日の出である。阪神淡路、東日本という2度の大震災など、幾度も災害にあい、乗り越えてきた平成の時代である。ありふれた日常のありがたさ、幸せをかみしめた時代だった。
今年、阪神タイガースは新監督・矢野燿大を迎え、最下位からの再出発となる。高校野球は春91回、夏101回の再出発である。一からのスタートである。
不変と永遠の輝きを浴びながら、すべての野球人の幸福を思い、祈った。=敬称略= (編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大。85年入社。アマ野球、近鉄、阪神などを担当しデスク、ニューヨーク支局を経て2003年から編集委員(現職)。07年から大阪紙面にてコラム『内田雅也の追球』を担当し、13年目を迎える。和中桐蔭野球部OB会関西支部長。
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