【タテジマへの道】岩貞祐太編<下>地獄の石段で感じた責任
2020年04月30日 15:00
野球
「みんなが石段を登っている時につらい顔をしてて…。これは僕のせいだなと思ったんです。もう一度、みんなに認めてもらうしかないと」
仲間からの信頼、そして自信を取り戻すべく、祐太はより一層、練習に打ち込んだ。西田監督とは二人三脚でフォーム修正にも着手。「今までは投げるほうの左手のことばかり気にしていたんですが、右手でカベを作るように教えられて、それを意識するとコントロールがまとまり始めました」と手応えをつかんでいった。
「(2年の)田中に抜かれた時は落ち込んだところもあったんでしょうけど、そこから本当に練習をよく頑張った。夏が近づいてくると急激に伸びてきましたから」。西田監督も驚く祐太の快進撃が始まった。
6月の練習試合で鳥栖を相手に完封勝利を挙げると、翌週も完封。チームメートからは自然と「夏は岩貞じゃないと勝てない」という声も聞こえてきた。何よりも欲しかった信頼を勝ち取った。背番号「11」のエースとして再びチームの中心に戻ってきた祐太は、集大成となった最後の夏の県大会も光り輝いた。
初戦から順調に白星を重ね、4回戦では春にコールド負けを喫した因縁の相手・城北に7│0で完勝しリベンジ。準々決勝の秀岳館戦では後にDeNAに入団する国吉にも投げ勝った。準決勝で熊本工に敗れ、甲子園出場は夢に消えたものの、次なるステージは、はっきりと見えていた。
3年春に、全国各地の高校生を視察中だった横浜商大・佐々木正雄監督(65)が必由館を訪問し祐太の投球を見ていた。「細かったけど、ピッチャーらしい体形でね。その場でスライダーを教えたら(夏の大会で)4つも勝っちゃってね。新聞で結果を見るたびに、うちに来てくれるのか心配になってた」。佐々木監督の心配をよそに、祐太は横浜商大への進学を心に決めていた。
母・多恵子さんと高校卒業後の進路について話し合った時、力を込めて言った。「関東で野球がしたい。どうせダメになるなら、九州でダメって思い知るよりも、関東に行って思い知らされたい」。熊本出身の無名左腕の“下克上”が始まろうとしていた。
発表された横浜商大野球部の新入生一覧を見て、祐太と母・多恵子さんは言葉を失っていた。甲子園出場経験者がほとんどで「岩貞祐太」の名は“浮いていた”。「公式戦で1勝できたら良いかな、ぐらいに思ってましたね」。目標は限りなく小さかった。
同期生だけで投手は10人以上いた。「ブルペンに入る順番も自分はいつも最後の方で、悔しい思いもありましたけど、当然だと思って。結果を出していくしかないと」。その決意は、いきなり実を結ぶことになる。1年春のリーグ戦の最終試合に8回から中継ぎとして、公式戦初登板すると、延長13回まで投げ切って初勝利を手にした。
「1勝したら、もう1勝、もう1勝と欲が出てきました。バッター1人1人をとにかく抑える意識でいきました」。礼儀作法など、人間としてのしつけも厳しく指導してきた佐々木監督のもとで、祐太は精神的にも強靱(きょうじん)になっていった。
2年春にはリーグ戦で5勝1敗、防御率0・93をマークし最優秀投手賞を獲得。第38回日米大学野球選手権の代表候補合宿に招集された。メンバーを選抜する紅白戦では2死満塁、フルカウントから投じた1球は自己最速を更新する144キロ、見逃し三振に打ち取り、代表入りを勝ち取った。
日の丸を背負った期間は収穫の毎日だった。菅野(東海大→巨人)、藤岡(東洋大→ロッテ)、野村(明大→広島)…。「一流のピッチャーはキャッチボールの1球であっても指先までしっかり使って投げていて、ボールを握った状態で雑なことが全くなかった」。投手としてのあるべき姿を目に焼き付けるだけでなく、プロ入りを強く意識した瞬間でもあった。
代表戦後に一時スランプに陥ったが、4年秋には6勝を挙げて、最優秀投手賞とベストナインを獲得。大学屈指の左腕に成長を遂げた祐太は社会人チームから10社以上の誘いを受けた。「社会人野球の試合も見てきて、レベルの高さは分かっていたんですが、やっぱり最高峰のプロで勝負してみたい」。迷いなくプロ志望届を提出した。
そして、10月24日│。阪神からドラフト1位で指名を受けた。決して平たんでなかった祐太の野球道が、プロ野球という最高の舞台につながった。「人間性であったり、成績を残すことであったり、そういうところからチームの信頼を得られる投手になりたい。支えてもらってる方も大勢いるので、活躍して恩返ししたいです」。猛虎のエースになる│。これが、岩貞祐太の運命(さだめ)だ。
(13年10月31日、11月1日付掲載、あすから高山俊編)
◆岩貞 祐太(いわさだ・ゆうた)1991年(平3)9月5日、熊本県生まれ。小4で野球を始め、必由館では1年秋からベンチ入りも甲子園出場はなし。横浜商大では2年夏に日米大学野球に出場。2年春と4年秋に最優秀投手賞を獲得するなどリーグ戦通算25勝。最速148キロに鋭く曲がるカットボール、スライダーなどを操る。背番号17。1メートル82、78キロ。左投げ左打ち。
おすすめテーマ
野球の2020年04月30日のニュース
特集
野球のランキング
-
ヤクルト 東京都にマスク5万枚を寄贈 中村悠平「命を守るために最前線で闘っていただいている」
-
JERA「セ・リーグ6球団監督のテレビ電話会議」を公開
-
巨人・丸&岡本 5・1インスタライブに登場
-
阪神・西勇が医療機関にマスク4万枚寄贈
-
-
米球界ドラフト事情 コロナ禍の影響は… 来るべき時のため、今、何をできるか
-
【内田雅也の猛虎監督列伝~<11>第11代・金田正泰】「排斥運動」の自業自得 代理は自ら招いた名将
-
泣いて笑った09年CSラスト6試合 野村監督、最後のボヤキ「もう1年…」
-
巨人・坂本&亀井 ぶっちゃけ私生活トーク「優しい内海さんに、ガチ切れされたことが…」
-
巨人選手のおうち時間は?小林「掃除しまくってます」石川「誠司さんとライン」
-
ソフトバンク・工藤監督 1軍野手全員と“電話面談”「話すことで少しでも楽になってくれれば」
-
ソフトバンク・高谷 工藤監督の電話に感謝 登録していない番号で「びっくり」
-
DeNA・国吉 マッチョボディーに磨き 今は「ウエートトレの成果がモチベーション」
-
西武・今井 ファンとWeb交流、チームで誰と結婚したい?に「源田さん」
-
ロッテ・清田 ダンベル購入で筋トレ「家でもできるトレーニングを」
-
ヤクルト・雄平 試合中の3密解消「難しい」 「試合の時は気持ちも入っているし」
-
楽天 マスクカバー5.1限定発売 辰己「大事な体と貴重なマスクを守りましょう」
-
日本ハム 球団史上初の同一シーズン新人5人白星なるか?
-
中日・福 左腕の投球術を動画で研究「日に日によくなっている」
-
オリックス・海田「日本史の資料や問題集」で“脳トレ”
-
オリックス・山本ら16競技24人のアスリートがSNSで共同メッセージ
-
広島・床田「気分転換も兼ねて」マウンドから投球も…「しっくりこなかった」
-
阪神・原口 嵐・櫻井とアフラックCM共演舞台裏、初めて語った「何かを伝えられたら…」
-
阪神・スアレス“おうち時間”で料理や語学習得「時間を有意義にと思って過ごしていた」
-
阪神・青柳 積極ブルペン投球 投球フォーム固めに励む
-
阪神・江越 打撃向上へタイミングの取り方変更挑戦
-
【夢のご当地オールスター・東海編】エースに阪神の「初代Gキラー」西村幸生
-
マエケン インスタライブでカープ愛「最後は日本でもう一回やりたい」
-
MLB3地区再編案 リーグ解体し東・西・中の各10球団に
-
MLB チケット払い戻しの対応は各球団に一任