「晴れ姿」で示した感謝の心――「聖地」で入場行進を行った玉野光南野球部
2020年06月20日 12:15
野球
同校は岡山大会決勝の舞台となる「聖地」倉敷マスカットスタジアムで例年6月中旬、関西高校などと3年生部員の「お別れ試合」を開催している。夏の大会のベンチ入りメンバーから漏れた3年生部員にとって、最後の晴れ舞台。翌日からは自身の練習は控え、メンバーのサポートに回る節目としていた。
今年は6月16日に球場使用を予約していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で対外試合は自粛要請を受けていた。
代わって企画したのが保護者を招待しての3年生送別の記念試合だった。3年生―2年生の紅白戦。特にこだわったのが、試合前に行った入場行進だった。
「開会式の入場行進はまさに晴れ舞台ですから」と田野昌平監督(48)は話す。2013年夏、監督として甲子園出場した際、開会式で行進する選手たちを目にすると「涙が止まらんようになった」。
岡山県高校野球連盟は代替大会の「2020夏季県高校野球大会」を7月18日開幕で開催するが、感染予防から開会式は行わない。試合も無観客で行う。田野監督は言う。「2年半がんばってきた3年生の雄姿をマスカットスタジアムで行進する姿として親御さんに見てもらいたい。支えてもらった感謝の気持ちを伝える意味がある」
3年生は選手27人、女子マネジャー2人。ベンチ入り人数は昨年まで18人。今夏の独自大会は特例で25人まで拡大された。それでもベンチを外れる3年生は出る。
晴れ舞台のために、OB会から3年生全員に「1」から「27」の背番号が贈呈された。
当日。夕方、保護者は一塁側ファウル地域に並ぶなか、選手入場。右翼から夏の甲子園大会の行進曲に合わせ、マネジャーがプラカードを持ち、入場してきた。真っ白に洗濯された試合用ユニホームが夕日に映えた。
ユニホームは、小さいころから、母親らが心を込めて洗ってきた。喜多川泰の小説『One World』(サンマーク出版)に野球少年(佳純)のユニホームを洗濯する母親(結佳)の思いが描かれている。
<子どもが着て帰ったユニフォームを見れば、試合を見に行かなくても、どんな一日だったのか手にとるようにわかる>。そして<ユニフォームを洗濯機に入れながら、届くはずもない声で、「負けるな。がんばれ」とつぶやく>。
小説では控え選手の息子のユニホームはいつもきれいなままだった。ある日、三塁手で試合に出て帰ってくる。
<「こんなに汚してきたのは初めてね……洗うの大変だなあ」そう言いながらも嬉しそうな結佳は、あふれてくる涙を止めることができなかった>。
そういうものだ。ユニホームには親子の思いがこもっている。保護者たちは手拍子を送った。涙を流す母親の姿もあった。
主将の能瀬偉月(いつき)君(3年)は感謝の言葉を盛り込んだ選手宣誓を行った。
「休校期間のなかで、家族への感謝、仲間の大切さ、今までの当たり前が当たり前でないと、たくさんのことに気づくことができ、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました」
保護者に向けて「無観客試合となれば、今日が最後になるかもしれません。今日は思いの詰まった試合をしたいと思います」。
そして「玉野光南高校は夏の代替試合に向けて、必ず岡山一番になり最高の夏にすることを誓います」。
能瀬君は昨年5月、傷めた右肘を手術し、長いリハビリを積んできた。今まで公式戦出場の経験はない。誰よりも最後の夏にかける思いが強かった。夏の大会中止で「目標を見失って、頭が真っ白になった」。だが「キャプテンとして最後まで自分の仕事をやり抜く」と両親に誓っていた。この日、スタンドでは涙ぐむ母親の姿があった。
先の小説には少年・佳純の姿勢をたたえるコーチの言葉がある。
「誰かが好きなことを一生懸命がんばる姿っていうのは、そいつが夢を実現したかどうか以上に、周り人の心に影響を与えるんだ」
甲子園という夢は消えてしまったが、がんばった日々は輝いている。3月2日から臨時休校となり、長い自粛期間が続いた。河川敷や公園で練習し、部員同士でグループLINEで近況を話し合ってきた。困難に立ち向かった、この年代の球児は、より豊かな心を持てるのではないだろうか。
試合は美しいナイター照明の下、3年生全員が出場した。「これが最後だと思って見届けます」と話していた保護者たちから、大きな拍手がわき上がった。(編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 玉野光南野球部との交流は2012年から続く。田野昌平監督や部員が大阪紙面で連載するコラム『内田雅也の追球』を輪読していると聞き、翌13年に訪問した。野球に誠実に取り組む姿勢が息づいている。1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭(旧制和歌山中)―慶大文学部卒。
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