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カメラにピース、進学校エースの清々しさ…代替試合で触れた数々のドラマ

2020年08月16日 09:00

野球

 この瞬間を心の底から楽しんでいるような、本当に良い表情だった。一塁側から三塁ベンチにレンズを向けると、都羽村のベンチ入り選手10人はピースサインで応えてくれた。「写真撮られてるぞ。イエーイ!」。7月29日の西東京大会2回戦・昭和第一学園戦。8回途中に雨脚が強まり、この日2度目の中断。三塁ベンチは全員が大きな声を出して、盛り上げていた。
 チームに一体感が生まれ、8回に3―8から5得点で一気に追いついた。神戸那央主将(3年)は「うちは打つチーム。点差は開いてたけど、負けるなんて1ミリも思ってなかった」と得意げに話した。だが、延長10回のタイブレークの末に敗退。神戸主将は10回無死一、二塁で二ゴロ併殺に倒れ「変化球を当てにいく打撃をしてしまった。フルスイングしようと決めていたんですけど、一番悔いの残る打席」と大粒の涙を流した。

 それでも全力でやりきった。春の時点で部員が8人。単独での出場が危ぶまれたが、ハンドボール部から1名が加入。一時チームを離れていた選手も戻り、10人で初戦を突破した。「最後に良い試合ができてよかった」と胸を張った。

 もう一つ、取材で印象に残った学校がある。神奈川の進学校・希望ケ丘。当初10人だった3年生のうち、代替大会に臨んだのは7人。例年より開催時期が1カ月ほど遅れたことで、3人が大学受験に向けて勉強に専念する決断をした。

 「全員でやりたかったなというのはもちろんある。でも誰の責任でもない。応援してくれていたと思うので、3人の思いも受け取って、全力で戦いました」と田中陸斗主将(3年)。2回戦で相模原に8回コールド負け。エースで4番で主将と、重責を担った田中は試合後に「責任感がある方がここぞという場面で力が出る。いろいろ背負わせてもらったのはうれしかった。やりきりました」と清々しく語った。

 球児たちの言葉を聞き、姿を見て、勉強させてもらっている。中断中とはいえ、試合中にカメラに向かってピースする光景はおそらく強豪校にはないだろう。3年間、一緒に戦ってきた仲間全員で最後の大会に挑むべきという考えもあるかもしれない。ただ「こうあるべき」という1つの正解はない。一人ひとりにドラマがある。涙や笑顔の意味はそれぞれで違う。青春を忘れかけていた記者も8年前の高校時代に戻りたくなった。(記者コラム・岡村 幸治)

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