【内田雅也の追球】0秒台クイックの裏側 盗塁阻止と満塁招いて被弾 阪神・青柳の超速投法

2021年03月14日 08:00

野球

【内田雅也の追球】0秒台クイックの裏側 盗塁阻止と満塁招いて被弾 阪神・青柳の超速投法
<オープン戦 神・西> 6回、山川の満塁弾を浴びた青柳(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 【オープン戦   阪神2ー6西武 ( 2021年3月13日    甲子園 )】 かつては下手投げはクイックモーションが難しく、盗塁されやすいというのが定説だった。だが21世紀を迎え、渡辺俊介(ロッテ)や牧田和久(西武)らが下手投げでも速いクイックが可能なことを証明してみせた。
 今の下手投げ、阪神・青柳晃洋はさらに進化させた。左足を滑らせるようにステップして投げ込む。クイックの速さは現在の12球団でも随一である。投球始動から捕手が捕球するまでの投球タイムは一般に1秒2で合格とされる。青柳はほとんど1秒を切る。0秒台の超速クイックなのだ。

 13日の西武戦(甲子園)でも0秒台クイックは健在だった。5回表1死、俊足の新人・若林楽人(駒大)に内野安打を許した。次打者・佐藤龍世への投球タイムを手もとのストップウオッチで計った。順に書いてみる。

 (1)ツーシーム・空振り=0秒95
 (2)スライダー・ボール=0秒93
 (3)スライダー・ボール=0秒86
 (4)ツーシーム・空振り=0秒89

 球速が落ちるスライダーでも0秒台だった。

 この4球目に若林はスタートしてきたが、梅野隆太郎の二塁送球で悠々アウトに仕留めた。梅野の強肩はさすがだが、青柳の超速クイックが物を言ったのである。

 西武の作戦はヒットエンドランだろう。あの速いクイックを見せられては、盗塁という作戦は立てづらい。相手走者を足止めさせる武器になる。

 昨年、青柳登板時に相手走者が盗塁を企てた回数はわずか3回だった。阪神で言えば西勇輝が10回、秋山拓巳は5回。

 他チームでは菅野智之(巨人)5回、千賀滉大(ソフトバンク)7回が少ない方で、セ・パ両リーグの規定投回数到達投手14人で青柳が最も少なかった。相手はほとんど走ってこないのだ。

 ただ、同じ1死一塁で俊足走者(鈴木将平)を背負った6回表は肝心の投球が乱れたのが気になった。

 次打者・源田壮亮へ、タイムは0秒92~1秒02だったが、3ボール1ストライクとボール先行から右前打された。一、二塁となって外崎修汰には0秒98~1秒06で4連続ボールの四球。満塁となり、ゆったりと足を上げて投げた、内角へ切れ込むツーシームを山川穂高に左中間席に運ばれた。

 青柳は走者なしでもセットポジションから投げる。投球タイムはだいたい2秒台中盤である。どんな投手でもクイックでは球速や球威、あるいは制球力が落ちるものだ。走者なしの2秒台とクイックでの0秒台で、投球に大きな格差があってはよろしくない。

 野村克也は南海(現ソフトバンク)で捕手兼任で監督をしていた1970年代、後に「世界の盗塁王」と呼ばれる福本豊(阪急=現オリックス)の盗塁を封じるため、投手陣にクイック投法の習得を命じた。

 『野村克也 野球論集成』(徳間書店)で投手への指示として<クイック投法をしても、なるべく球威や制球に影響が出ないこと>と記している。<なるべく>なのだ。野村も盗塁阻止のためのクイック投法の弱点、あるいは裏側と言える投球の難しさを承知していたわけだ。

 青柳は走者警戒の意識はどれほどだったろうか。クイックに気を取られ、打者への投球が乱れては元も子もなくなる。自信を持てばいい。青柳のクイックは既に完成されており、投球に専心できる域にあるのだから。=敬称略=(編集委員)

おすすめテーマ

2021年03月14日のニュース

特集

野球のランキング

【楽天】オススメアイテム