“朗希騒動”機に考える「ロボット審判」賛否 「ストライクゾーン安定」「機械のための規則改正は滑稽」

2022年04月30日 06:10

野球

“朗希騒動”機に考える「ロボット審判」賛否 「ストライクゾーン安定」「機械のための規則改正は滑稽」
24日のオリックス―ロッテ戦の2回、佐々木朗(左)のもとに詰め寄る白井球審 Photo By スポニチ
 各分野の話題の賛否を問う企画「マイ・オピニオン」。ストライク、ボールの判定に不服な態度を見せたロッテ・佐々木朗希に対し、白井一行球審が詰め寄った場面は、多くの賛否を呼び、大リーグ(MLB)で導入が検討されている「ロボット審判」についてまで議論が及んだ。将来的に日本球界でも導入が検討される可能性はある。元NPB審判員の柳内遼平記者(31)と、97年からMLB取材を続ける奥田秀樹通信員(59)が、是非について持論をぶつけた。
 【賛成・奥田秀樹通信員 ストライクゾーン安定して文句なくなる】私は機械には頼らず、審判員の目と判断力が全てだった伝統的な野球が嫌いだったわけではない。しかし、MLBでテクノロジーが野球を大きく変えた時期に立ち会ってきた。

 03年5月、ダイヤモンドバックスのカート・シリングは試合後、5000ドル(約65万円)する高価なカメラをバットで叩き壊した。投球がストライクゾーンを通過したかどうかを見極めるもので、審判は試合後に自身の判定と照らし合わせ、90%以上は合致することをリーグから求められていた。シリングはベテランらしく、それまで審判によるストライクゾーンの違いを巧みに利用して投げてきたのに、機械のせいでゾーンが変わった。その試合、9安打され負け投手に。怒りをカメラにぶつけたのである。

 だが、いくらベテラン投手が野球の妙味が消えてしまうと腹を立てようが、MLBは引き続き、積極的にテクノロジーを導入した。08年からビデオ判定を導入、14年から現行のチャレンジ方式となった。15年導入の軍事技術を応用した計測システムのスタットキャストは、「フライボール革命」を起こし打者のスイングを変えた。そして今、ロボット審判が技術的にほぼ実戦で使える段階に達した。

 昨年、MLBはマイナーリーグでの実験でロボット審判の最大の課題であるストライクゾーンに取り組んだ。19年に野球規則のルール通りに設定すると、とんでもないボール球がストライクと判定された。そこで21年は2次元の長方形を設定し、プレーする選手に意見をもらい、ゾーンを改良していった。最初はその長方形はホームベースの投手寄りに設定されたが、ワンバウンドの縦に割れるカーブがストライクになりすぎたため、ベースの真ん中にずらした。その長方形も高めを削り、横を広くした。バットに当たりやすくするためだった。責任者のモーガン・スウォード氏(MLBの野球運営部門のトップ)は「このやり方で、長い間人々が思っていたストライクゾーンにかなり近づけたと思っている」と自信を示した。

 際どいコースの投球をストライクと判定させる捕手のフレーミング技術は意味をなさなくなる。だが、これでストライクゾーンは安定し選手もファンも文句は言えなくなる。長い歴史の中で、判定の不確かさを巡って、抗議があり、球場中が熱くなり、球界を盛り上げてきたのは確かだ。それでもこのテクノロジーによる変革をMLBが最後までやり切った時点で、野球がどのようになるのか。新しい野球が面白いのか、面白くなくなるのか、それをぜひ知りたい。

 【反対・柳内遼平記者 機械のための規則改正は滑稽 審判技術の低下にもつながる】安易にロボット審判を導入すれば、現場は大混乱に陥るだろう。公認野球規則にはストライクゾーンの高低について「打者の肩の上部とユニホームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、膝頭の下部のラインを下限とする」とある。審判員は実際にはこれよりゾーンを狭く設定して投打のバランスを保っている。厳格な「ロボット審判」が球審を務める試合を想像してみよう。

 ロッテ・佐々木朗が打者の胸の高さに投げ込んだ160キロ直球が「ストライク」。続いて投じた落差の大きなフォークは打者の膝頭の高さを通過してワンバウンドするも「ストライク」。規則に忠実なゾーンでジャッジすれば、佐々木朗に対応できる打者はいないだろう。12年に日本野球機構(NPB)使用球の反発係数の平均が基準の下限値を下回り、極端な打低となった「統一球問題」以上に投手有利となり、ゲームバランスは崩壊する。導入するならばストライクゾーンを狭める規則改正が必須だが、人がプレーする野球において「ロボット」のための規則改正は滑稽ではないだろうか。

 もう一つ大きな問題がある。NPBがロボット審判を導入すれば、長い年月と予算をかけて育んできた球審技術と育成ノウハウは失われてしまう。これは日本全体の審判技術の低下につながる。NPB審判員はアマチュア野球の審判員と意見交換会や講習会を重ね、審判学校を通じて技術とノウハウを継承して、互いに技術向上にも努めてきた。潤沢な資金を持たないアマチュア野球の団体には、ロボット審判の導入は困難。NPBはロボット審判が、アマチュアは「人」が球審を務めることになる。球審をしない審判員に「技術」を語らせるのは酷だ。専門職ではなく、ボランティアのアマチュア審判員たちが今後、日本のトップレベルを背負わされることになる。育成がシステム化され、リプレーで判定を検証する「VAR」を補助的な役割に位置づけているサッカー界に比べ、お粗末な審判体制になってしまう。

 NPBは近い将来、導入の検討を余儀なくされるのかもしれない。それは「カネ」の問題も大きい。人であればかかる交通費、宿泊費、年俸、手当、道具代、海外への研修費などはロボット審判員には発生しないからだ。ロボットの判定を伝える「人」の審判員は現場に1人いれば十分になってしまう。しかし、NPBは野球振興を目指す組織のはずだ。日本の野球界に与える影響をよく考えて「ジャッジ」してほしい。

 《「何でも機械、機械…」ダルは否定的》球界関係者も今回の騒動に伴い、ロボット審判について言及した。日本ハム・新庄監督は26日、今回の件で私見を述べた上で、「何年か後にそう(ロボット審判導入)なってくる可能性もある。この問題がもっともっと大きくなっていったらね」と話した。パドレスのダルビッシュは「選手も態度に出すんだから、審判も出してもいいのでは」などの考えを口にしたが、一方でロボット審判導入については「(審判と選手が)一緒に歴史をつくってきている。何でも機械、機械というのは好きじゃない」と否定的な立場を示した。

 《今季3A11球場で実験 MLBでの導入は関係者の同意が鍵》ロボット審判は、実際にロボットが球審の位置に立つわけではなく、機械がストライクかボールかを判定し、イヤホンを付けた球審に伝達している。昨年は1Aで実験を行い、今季は3Aの11球場で実験を続ける。技術的な問題に取り組み、最善のストライクゾーンを追い求めていく。MLBで使用されるかどうかの鍵は、技術的な部分ではなく、関係者のコンセンサスが取れるかどうかだという。スウォード氏は「多くの選手や関係者に意見を聞いているが、賛成派も反対派もいる。野球はミスが起こるもの、ミスも野球の一部と考える人がまだまだいる」と説明する。選手のレベルに合わせ1A、2A、3A、メジャーレベルでストライクゾーンの大きさを変えるかどうか、大差がついた試合では途中からゾーンを広げるかなども協議されている。

 《“騒動”にファンから多数の批判的意見》24日のオリックス―ロッテ戦の2回、白井一行球審が佐々木朗の際どい外角直球をボールと判定。佐々木朗が苦笑いを浮かべると、白井審判員が言葉を発しながらマウンドに詰め寄った。この「騒動」にNPBにはファンから批判的な意見が多数寄せられ、井原敦事務局長は26日、友寄正人審判長が白井審判員に「今回のような形ではなく別の方法で対応すべきだった」と指摘したと説明。28日には日本プロ野球選手会が、NPBに対して審判員と選手の関係改善に向けた質問状を提出する意向を示した。

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