【内田雅也の追球】「勝てる」投球と姿勢 伊藤将は打たれても最少失点で粘り、さらに自分を見失わない

2023年06月16日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「勝てる」投球と姿勢 伊藤将は打たれても最少失点で粘り、さらに自分を見失わない
<神・オ>9回、逆転された湯浅(左)を迎える伊藤将(撮影・成瀬 徹) Photo By スポニチ
 【交流戦   阪神2―3オリックス ( 2023年6月15日    甲子園 )】 悪夢のような敗戦後、湯浅京己の2軍調整を示唆した阪神監督・岡田彰布は「わからんなあ」と言った。昨年との違いである。
 「コントロールと言っても、もともと力で押し込むタイプやろ。キレと言うかなあ……」

 野球人がよく使う、この「キレ」とは具体的にどういうものか。湯浅のスピードガンの数値は昨年とほぼ変わらず、速球は150キロ台が出ている。「うーん……」と岡田は首をひねった。

 ではトラックマンやホークアイで計れる回転数や回転軸の問題か。あるいは、フォークが落ち始める地点が早いのか。ピッチトンネルをうまく形成できていないのか。
 考えながら岡田と並んで通路を歩いた。わからないままだった。

 ただ、岡田が言う「2本目のホームランがあかんわ」は理解できた。9回表、頓宮裕真に同点弾は浴びたが2死目を奪った。杉本裕太郎に2ボール―2ストライクからフォークが外れ、フルカウントから速球を狙われ、特大決勝弾を浴びた。

 「同点でも負けてないんやから。別に四球でもいいんよ。抑えはイケイケではあかん。ビビりでないと」。評論家時代からよく聞いていた持論だ。藤川球児を例に慎重さを求めた。

 1点リードで湯浅を送り出したとき、岡田はベンチにいた先発・伊藤将司に「今日は抑えるやろ」と声をかけたそうだ。前回8日の登板(楽天戦)も湯浅が1点リードの9回裏、逆転サヨナラ3ランを浴び、伊藤将の勝ち星を消していた。

 湯浅はつらい。どん底からの復活を望む。一方で2試合続けて勝ち星が消えた伊藤将もつらい。

 だが、勝ち越し弾を浴びて降板する湯浅を伊藤将はベンチ前先頭に出て両手で出迎えていた。その行動にチームスポーツとしての美点が見えた。

 この夜は7回1失点と好投した伊藤将は今季、登板8試合でクオリティースタート(QS)は7度もあるが、2勝しかあげていない。勝ち運に見放されている。

 ただし、勝てる投球や姿勢は見えている。打たれても最少失点にとどめて粘る。さらに自分を見失わない。自ら適時打を放った直後の5回表、マウンドで聞いた応援団からの「イトウ」コールにも平然としていた。

 心を乱さず、感情をコントロールできている。いずれ勝利の女神がほほ笑むことだろう。=敬称略=(編集委員)

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