世界チャンピオンはつらいよ――プロボクシング年間表彰式
2017年02月22日 10:10
格闘技
もう1人は殊勲賞に輝いたIBF世界スーパーバンタム級王者・小国以載(角海老宝石)だったが、こちらは28歳での表彰式初出席に終始硬い表情。数日前に届いた新しいベルトを忘れて借り物を肩にかけ、普段なら笑いを取るために用意するコスプレや小道具などのネタもなかった。受賞スピーチも「選ばれると思ってなかったので、何も考えてなかった」と短め。表彰後、顔見知りの記者に囲まれた際は「みんな早く乾杯したいでしょ」といつもの調子に戻ったが、「メチャメチャ緊張した。何も聞かされずに来てみたら、メッチャ人おるやん。僕向きじゃない」と汗をふいた。
同じ初受賞でも前途洋々の比嘉と違い、小国は今や追われる立場だ。頂点に立った瞬間から全世界の標的となるのが、世界王者の宿命でもある。小国の場合は国内のスーパーバンタム級に“世界挑戦予備軍”が多く、狙われている感覚はさらに増す。左手親指のケガで夏頃を予定する初防衛戦は、IBF3位の岩佐亮佑(セレス)が指名挑戦者。東洋太平洋王者の久保隼(真正)はWBA王座挑戦が決まったが、2階級制覇を狙う亀田和毅(協栄)をはじめ、和気慎吾(古口)、天笠尚(山上)、大竹秀典(金子)ら世界戦経験者がズラリそろう。前日本スーパーバンタム級王者の石本康隆(帝拳)が「半分は悔しい感じ。もう半分は希望をもらった」と話したように、小国の戴冠は有力選手のモチベーションを上げる材料となった。
「勝ったらリング上にベルトを置いて“普通の男の子に戻ります”と引退表明したい」。世界挑戦する前、現役に未練がないような口ぶりだった小国は表彰式で「1つでも多く防衛できるよう頑張る」と殊勝に話した。「来年もここに?」と聞いたら「(世界王者のままで)おったらね」と返してきた。その言葉で、年間表彰式の常連だった内山高志(ワタナベ)が今年はいないことを思い出した。包囲網を打ち破り、ベルトを腰に巻く難しさ、それを乗り越えた者だけに資格がある表彰の価値に、選考する記者として身震いがした。(専門委員)
◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)50歳になったばかり。スポニチ入社後はラグビー、サッカー、ボクシング、陸上などを担当。1997年、初の米ラスベガス取材でタイソンがホリフィールドの耳をかみちぎるシーンを目撃。サッカーの2002年W杯開催国決定の際は、日本に決まった場合の反応を取材する決死の覚悟で韓国へ乗り込み、日韓共催決定に拍子抜けした。