【天皇賞・秋】ソウルスターリング100点!名画思わす造形美
2017年10月24日 05:30
競馬
ソウルスターリング。その姿は今春と変わらず、息をのむほど美しい。名画を思わせる造形美。全ての部位がしなやかに無駄なくリンクし、完璧なバランスを整えている。柔らかい筋肉をつけた深いトモ(後肢)、そのパワーを受ける飛節は頑強で絶妙な角度。流麗に抜けた首差し、滑らかに傾斜した肩、盛り上がったキ甲(首と背の間の膨らみ)。前肢蹄の大きさと角度が左右で異なる点も含めて全て春と同じ。オークス時に「完美」と絶賛した姿そのままです。絵画になぞらえれば、作者のサインが入った完成された造形。春の時点で寸分の過不足もない仕上げが施されたため、数カ月経たところで描き加えようがないのです。
毎日王冠は「完美」な馬体でなぜ崩れたのか。気持ちの問題だと思いますが、立ち姿からその精神状態をうかがうことはできません。馬のメンタルは耳や尾の立て方、四肢の立ち方などに表れるものです。ところが、ソウルスターリングはいつも同じ立ち姿を見せる。スタッフを信頼して、きちんと立つようにしつけが行き届いているからです。スタッフに向けてしっかり立てた耳、適度な緊張感をもったハミのくわえ方、自然に垂らした尾。過去のG1・3戦と全て同じしぐさです。だから、立ち姿では気持ちの変化が読み取れない。
毎日王冠の映像を見れば、春とは違った精神状態だったことが分かります。ゲート前の輪乗りでいつになくイレ込んだ。ハミ取りのいい気性なのに、フワフワと先頭を行く走り。夏の放牧中にリラックスし過ぎたのか。だとすれば、秋初戦を使われたことで変わる可能性はあります。あるいは夏の間、走りたい気持ちを十分に発散できず、ストレスになったのか。だとすれば、秋初戦がガス抜きになるかもしれません。
G1のたびに寸分の過不足もなく仕上げられた馬体。完璧なしつけを体現した立ち姿。その写真にFUJISAWAのサインはなくても、造形を見れば手掛けた調教師の力量が分かります。巨匠ピカソの絵がサインなしでも傑作と評価されたように。あとは、「完美」なサラブレッドの気持ちを天皇賞当日までに立て直せるか。中2週のわずかな期間でも、馬づくりの巨匠と呼ばれる調教師なら…。
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日、東京生まれの73歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許を取得し、東京競馬場で開業。78年の開場とともに美浦へ。93〜03年には日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。