WC制覇で被災地に光届けた角居師
2019年03月29日 05:30
競馬
2011年、当時オールウエザーで行われたこのレースにはヴィクトワールピサの他にトランセンドとブエナビスタが出走した。
M・デムーロ騎手を背にしたヴィクトワールピサはスタートで出遅れる。日本より狭めのゲートを気にした同馬が、後ろへ下がったところで前扉が開いたのだ。
「“うわっ!!”と思いました」
管理する角居勝彦師は当時、心境をそう語った。
ところがペースが遅いとみるやイタリアの名手にいざなわれたヴィクトワールピサは向正面で一気に先頭に立った。
「“うわ、うわっ!!”って思いました。最後方からいきなり先頭ですからね」
角居師は苦笑しながらそう言った。最後はトランセンドとの競り合いになったが半馬身、前に出たところがゴールだった。
「たまたま私の馬が勝ったけど、今年に関しては日本馬が勝てるのであれば、どの馬でも良かったです」
角居師は勝利調教師とは思えないほど、しんみりとした表情でそう言った。
そう、このわずか2週間前、3月11日にはあの忌まわしい東日本大震災が日本列島を襲っていたのだ。
「こんな時に競馬をやっていて良いのか、海外へ遠征して良いのか…。凄く悩みました」
しかし、競馬で好走することが自分たちが東北に元気を届けられる唯一の手段だと考え、角居師は遠征に踏み切った。そして、見事に日本馬として史上初であり、現時点で唯一のドバイワールドカップ制覇という偉業を達成してみせたのだ。
この話は単なる人情話ではない。角居師は前年にウオッカをドバイへ連れて行き芝ではなくオールウエザーのレースを走らせた。結果は8着だったが、この経験を基に、翌年、栄冠をつかんだのだ。
果たして今年のドバイではどんなドラマが待っているだろう。また、角居師が大阪杯に送り込むキセキとエアウィンザーはどんな競馬を見せてくれるだろうか。どちらも注目したい。(フリーライター)