【フェブラリーS】スピーディキック95点 地方から偉業へ 細身でシャープまるでカミソリ
2023年02月14日 05:30
競馬
細い首差し、薄手の腹袋、流麗な曲線を描いたスマートなトモ…。100人のホースマンが見れば、恐らく100人とも(私を含めて)芝馬だと勘違いするでしょう。ダート馬らしさをのぞかせるのは胸前の発達した筋肉ぐらいです。こんな細身の体で地方競馬の重たいダートをよく走ってきたものだと思う。
芝体形のダート馬。数年前にも見た記憶があります。書斎の本棚にしまい込んでおいた過去の馬体写真の束をめくってみると…。この馬によく似たスマートなトモを持ったダート馬が目に留まりました。写真のキャプションにはノンコノユメ。5年前のフェブラリーS優勝馬です。
中央のダートは地方競馬と違ってスピードと切れ味が要求される。特にフェブラリーSの舞台、芝の部分からスタートする東京ダート1600メートル戦はその両方がパワー以上に厳しく問われる。ノンコノユメ同様、スピーディキックもシャープな芝体形を生かせる舞台です。
メンコで覆われているため耳の形は不明ですが、神経質そうな目がメンコの間からのぞいています。鼻こうを開き、尾は体から少し離している。緊張して少し力んでいるのです。牝馬らしい繊細な気性の持ち主なのでしょう。入場制限が緩和された東京競馬場の大観衆を前に平常心で走れるかが課題。初めて経験するJRA・G1のにぎわいにのまれなければ通用すると思う。岩手のメイセイオペラ(99年フェブラリーS)以来となる地方馬のJRA・G1制覇も夢物語ではありません。
魚網鴻離。鴻は冬の旅鳥です。「雁渡し」と呼ばれる北風に乗って大きな翼を広げます。木枯らしに乗って地方競馬場から渡ってきた旅馬も翼が生えたように加速できる。シャープな馬体がそう告げています。(NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。