池愛里 9歳で左足首まひも…運命に導かれた16歳大型スイマー
2015年06月13日 10:30
五輪
![池愛里 9歳で左足首まひも…運命に導かれた16歳大型スイマー](/sports/news/2015/06/13/jpeg/G20150613010532620_view.jpg)
左足首のまひは「2種6級」。最も軽度の障がいではあるが、回すことはもちろん、上下左右への動きはほとんどできない。特製装具のおかげで走り回ることはできるが、足首の柔らかい動きで推進力を生む水泳においてはハンデだ。「障がいを受け入れる」と決断し、茨城・水戸市役所へ申請に行った中学2年。スイミングクラブに在籍しながら一般のレースに限界を感じていた14歳にとって、職員が教えてくれたパラリンピックの存在は、輝いていた。
長身を理由に勧められたミニバスケットが楽しくて仕方なかったという、小学校3年の夏。週5回の練習で「筋肉痛が取れない」と思っていた左脚がある日、みるみる腫れた。「休みたくないから」と内緒で練習に参加しようとしたが歩くのも痛く、遅刻。1人でアップしていると、走ることもできなくなった。
それが滑膜肉腫という悪性腫瘍、つまりがんであることが分かったのは、発症から1週間以上経てからだった。すぐに切断を宣告した医師に、池はうなずかなかった。「走れなくなる、というだけの思いだった。両親は切ってほしかったかもしれません。生きてほしかっただろうし」。気持ちをくんだ母が見つけてくれたのが、脚を切断せずに患部だけを取り除く療法だった。
当時実績を残し始めていた新療法だが、腫瘍の種類が分からず、患部を縮小するための抗がん剤は効かない可能性もある。効果がなければ待っているのは切断か、死。だが薬は奇跡的に効果を示し、08年春には摘出手術を行った。神経に絡みついたがん細胞を削ったことで、後遺症として残ったのが左足首のまひだ。
元来、スポーツ好きの少女がリハビリを経て、ようやく許可された運動が水泳。だが、池にとっては幼少期に体験会からも逃げ出した、最も嫌いなスポーツでもあった。それでも体を動かす喜びには、あらがえない。週1度が2度になり、毎日通うようになると、選手コースまで進んだ。
パラアスリートとして初めて出場した12年の全国障がい者スポーツ大会県予選から、破竹の勢いで日本記録を塗り替えた。昨年のジャパンパラ大会では50メートル自由形のアジア記録も更新。日本のホープに躍り出た。迎えた10月のアジア・パラ大会(韓国・仁川)。50メートル自由形で優勝したものの記録は自己ベストに及ばず、100メートル自由形では中国選手に敗れた。初めての挫折に涙が止まらなかったという。
だが、それは気持ちに火を付けることでしかない。手術後のリハビリを行っていた東京・築地の国立がん研究センター中央病院での出来事にさかのぼる。「院内学級できのうまでおしゃべりしていた友達が、翌日には亡くなっていたんです」。過酷な現実が教えてくれた「今」と「挑戦すること」の大切さ。だから決めている。生きていることへの感謝を、20年東京で金メダルという形にして伝えることを。
≪左脚太腿付近に悪性腫瘍 切断を勧める医師に抵抗≫9歳で左脚太腿付近に悪性腫瘍ができた池は、切断を勧める医師に抵抗し、脚を残す療法を選択した。抗がん剤治療後に病巣を摘出したが、その際に左足首のまひが残った。リハビリ後に小学校生活に戻っていったが、ありのままの自分を受け入れる決断をした中学2年時に「障がい者手帳」を申請。だが、父・愛明(あいめい)さんは反対した。その後、障がい者大会で大活躍。一昨年10月にマレーシアで開催されたアジアユースパラゲームスで金メダルを獲得し、帰国すると父は「これからも頑張れよ」と声を掛けてくれた。今は大会ごとに応援に駆けつけてくれるという。「世界一を目指すのに、五輪もパラリンピックも同じ、ということをようやく分かってくれたんだと思う」。
◆池愛里
▽生まれ 1998年(平10)9月12日、茨城県取手市。
▽経歴 水戸市立五軒小―第二中。峰村史世コーチの主宰する「峰村 ParaSwim Squad(PSS)」で指導を受けるため、上京し東京成徳大高2年在学中。
▽サイズ 1メートル78、体重は「秘密」。
▽練習スケジュール 高校の水泳部と峰村PSSで週6日、8セッション。合宿時は1日1万~1万2000メートルを泳ぐ。
▽武器と弱点 峰村コーチによれば特長は「長い手足と負けず嫌い」。一方で左右のキックのバランスを取るために体幹の強化が課題。
▽好きなタレント SHINee
▽家族 会社経営の父・愛明さん、母・育美さん、兄・浩澄さん、弟・勇輝さん。父は東京に単身赴任していたが、池の上京と同時に家族全員が東京へ移住した。
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