NHK杯恥かき日記2 真駒内に陽炎が立つ
2016年12月03日 11:00
フィギュアスケート
ピンボケではない。レンズの前にすりガラスを置いたような、カメラマンの世界で言う「眠い」写真なのだ。原因はこの時点では思い浮かばず、やっちまった感でいっぱいだった。
NHK杯フリーの日。午前8時。
「きょうは何回往復できるかな?」。タクシーの運転手さんも上機嫌だ。「先日の『嵐』のときには朝4時から、札幌ドームまで4回行ったからね。きょうも羽生くん、さまさまだね」。
朝4時からグッズ売り場に並ぶ嵐ファンも熱いが、真駒内セキスイハイムアイスアリーナのファンも熱かった。入場口には完全防寒スタイルの女性たちの列。氷点下の気温の中、熱くなければやってられない。
午前11時10分。最終組の選手たちの練習が始まり、羽生選手の「Hope & Legacy」が流れると、遠い歓声がリンクサイドにまで聞こえてくる。入場前なのにおかしいなと思っていると、曲のエンディングと同時に盛大な拍手。列を作るファンたちがもれてくる音楽に羽生選手の姿を想像しての盛り上がりらしい。
氷を溶かさんばかりの熱気は、演技が始まるとさらにボルテージが上がった。
実はこの熱気こそがボクの失敗の原因だった。
羽生選手の直前に会心の演技をした田中刑事選手。彼が拳を握り声援に応えるまでは写真は正常だ。だが羽生選手がコールされるころから画質は怪しくなり、4回転ループが決まった直後から被写体の輪郭が溶け出した。
会場が弾けたような、あの盛り上がり。呼吸をするのを忘れ4回転ループの成功を祈ったファンが一斉に吐き出した吐息。負傷明けのシーズン、元気な羽生選手を見ての安堵のため息。そして体からの熱狂。熱いものすべてが一緒になって冷たい大気と触れ、もやとなって立ちこめた。あるいは暖まった客席と冷たい大気の間に陽炎が立ち、光を屈折させレンズに虚像を結ばせた。これはボクシングの世界戦などでごくまれに見られる現象だ。
このように冷静な分析ができたのは翌日になってから(失敗した直後のカメラマンは無口になるんです)。「昨日はさんざんだった」とボクが切り出すと「実はオレも」というのが何人も名乗り出て、傷口をなめ合いながら出した結論だ。いずれにせよ予見できなかったこちらの責任である。
秒間5コマで押しまくっているシャッター。怪しいと感じた時点でカメラのモニター画面で確認するなどの手だてはあった。だが彼の演技はファインダーから目を離す2、3秒が惜しいのだ。この気持ち、わかってもらえるよね。(編集委員)
◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。最近、現場では「先生じゃない方」と呼ばれます。
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