東京で奇跡を起こすためには真夏のレースを避けては通れない

2017年09月03日 11:00

マラソン

東京で奇跡を起こすためには真夏のレースを避けては通れない
前田穂南 Photo By スポニチ
 【藤山健二の独立独歩】20年東京五輪のマラソン代表を懸けた戦いが始まった。男女各2人を選ぶ19年秋の「グランドチャンピオンシップ」(GC)に出場するためには、まず日本陸連が指定した大会に出場し、設定タイムをクリアしなくてはならない。その初戦となった先月の北海道マラソンでは男子の村沢明伸(日清食品G)と女子の前田穂南(天満屋)がそれぞれ優勝し、まずGC進出を決めた。
 国内では唯一の真夏のマラソン大会とはいえ、スタート時の気温は24・8度、湿度も47%で、3年後の舞台となる東京の猛暑とは比べるべくもない。それでも本気で東京でメダルを獲るつもりなら一度は真夏のレースを経験しておく必要があると思うのだが、今回もまたほとんどの有力選手が出場を見送った。GCシリーズの詳細が決まったのが4月で、しかも8月には世界陸上もあったので調整が難しかったのは確かだが、来年以降も夏場のマラソンを回避する従来通りの傾向が続くようでは、東京でのメダルはおぼつかない。

 以前、国立スポーツ科学センター(JISS)が開催した「暑熱対策セミナー」で、奇想天外な案が出されたことがある。五輪1年前の7〜9月は東京で練習し、それ以後はベネズエラやタイなど東京の暑さや湿度とほぼ同じ国を転々としてトレーニングすれば暑熱順化(体を暑さに順応させる)が可能だというのだ。もちろん、この案は練習環境や費用などを一切無視してただ東京と同じ気候の地域を列挙しただけなので実現性はない。突拍子もない案で会場からは思わず失笑が漏れたが、逆に言えばそのぐらいのことをしなければ東京の暑さには順応できないということでもある。

 もともと9月に行われていた北海道マラソンが8月に変更されたのは89年のことだった。91年に東京での世界陸上開催が決まったのに伴い、日本陸連が暑さ対策の一環として同レースをてこ入れし、半ば強制的に有力選手に出場を働きかけた。陸連にとっても選手にとっても初めての真夏のレースで手探り状態だったが、男子は谷口浩美(当時旭化成)が優勝。その時の経験を生かし、91年の世界陸上では見事に金メダルを獲得した。暑さ対策だからと言ってただ暑い中で走ればいいという単純な話ではないし、冬場のマラソンよりもダメージが大きいのは事実だが、東京で戦うためにはやはり真夏のレースを避けては通れない。

 19年秋のGCを考えれば、夏場のマラソンを体験できるチャンスはもう来年の1回だけしかない。日本のマラソンが東京で奇跡を起こすためには、地の利を生かして酷暑を味方につけるしかないはずだ。来年の北海道マラソンへの取り組み方を見れば、東京の結果がある程度占えるのかもしれない。 (編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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