運命はピンポン球の番号次第 「ロッタリー」はNBAドラフト最初の分かれ道
2019年05月11日 11:40
バスケット
さて半端なので「11、12、13、14」という組み合わせをひとつ排除しよう。するとどうなるだろう?残ったのはちょうど1000通り。数学の時間に居眠りをしていた私にはそう言われてもピンと来ないが、ここで頭にピカッと豆電球が光った人たちがいる。それがNBAのドラフトに携わった関係者。NBAのドラフトではプレーオフに進出できなかったチームのために、どのチームにも全体トップで指名できる可能性を与えるのだが、奇跡にも近い組み合わせ?で新たな時代を迎えることになった。
NBAのドラフトが最初に行われたのは組織名がまだBAAと言われていた1947年。それから紆余曲折を経て「Lottery(ロッタリー)」という指名順位決定方式が1985年に採用される。ロッタリーは「抽せん」「くじ引き」という意味。何を目的にしていたかと言えば、シーズン終盤に負けが増えたチーム同士による故意敗戦を防止するためだった。
ドラフトのトップ指名は1966年から1984年まで東西両地区の最下位同士のチームによるコイントスで決めていたが、これではシーズン終盤にプレーオフ進出の可能性がなくなったチームがわざと負けようとする。それでプレーオフから除外されたチームを対象に上位3番目までの「当たり」の書かれた紙が入った封筒を3つ用意して、該当チームにひかせていた。だからまさに抽せんだった。当選確率は最下位だろうが、そうでなかろうがみな同じ。くじを引いたのは7チームだったので、トップ指名権を手にできる確率は14・3%だった。
1990年からは最下位チームが最高の確率を得られる新方式に移行。一番成績が悪かったチームには16・7%、2番目が15・2%、3番目が13・6%…といった具合。確率によって決めるのは3番目までの指名だが、とりあえずプレーオフに縁がなかった全チームには確率という名の“希望”が与えられた。
さて現在、NBAは30チームで構成され、16チームがプレーオフに進出している。すると出られないのは14チーム。冒頭の下りを思い出してほしい。ここでも「14」が出てくるのだ。そして新ロッタリーを考えた人はひらめいた(たぶん)。14チームにすべて違う確率を与え、あらかじめ1~14の数字から4つを選んで成り立つ1001個の組み合わせからその確率に応じて“分け前”をランダムに与えておこう。もちろん「11~14」の組み合わせを1つ抜けば残るのは1000通り。なんとまあ実にNBAドラフトにとっては都合のよい数で、16・7%なら167通り、15・2%なら152通りとなる。
確率は年によって変化していった。一番成績が悪かったチームの年度別最高確率は25・0%だったが、今年からは下位3チーム(ニックス、キャバリアーズ、サンズ)はすべて14・0%。これで無意味なシーズン終盤の最下位争奪戦は回避できるだろう。このシステムは1995年からNHLでも採用されたので、成績下位チームからの指名となるウェーバー方式を採用している大リーグやNFLとは一線を画している。
では具体的にどうやって「一等賞」に相当する4つの番号を選ぶのか?かつては14個のテニスボールに数字を書いてこの中から4つを選んでいたのだが、現在使われているのはピンポン球だ。可視性を確保するために透明の容器を使い、この中に1から14までの数字を記した白い球が投入される。しかし静止した状態だと死角ができるので、容器の下からは空気を送られてボールは宙を舞っている状態。そしてタイミングを見計らって1つずつ上に吸い上げられ、出てきた4つのピンポン球に書いてある数字を割りあてられていたチームが“勝者”となるのだ。
去年のロッタリーで最初に吸い上げられた4つのピンポン球に書かれていた数字は順番に9、12、6、1。結果的に最高確率(25%=250通り)を持っていたリーグ全体最下位のサンズにこの数字が割り当てられていたので意外性はなかったのだが、もし今年も同じ数字が出たとして、それを1%(10通り)しかないホーネッツ、ヒート、キングスのいずれかのチームがそれを持っていた場合には会場はどよめき、歓喜と嫉妬が交錯する微妙な空気が漂うことになるだろう。
さてこれが日本人初のNBAドラフト1巡目指名を待つゴンザガ大の八村塁(21)にとっての「運命の第一歩」となる。「ロッタリー・ピック(14番目まで)」の中での指名はないかもしれないが、低確率のチームが祝福されることになると、他のチームの思惑が揺れ動くことになり、今年のドラフトは意外なシナリオと直面するかもしれない。
ロッタリーは5月14日、そしてドラフト自体は6月20日の開催。さて14個のピンポン球は八村に対してどんな運命を与えようとしているのだろうか…。どんな人の運命も“奇跡の結びつき”で組み立てられていくが、NBAのドラフトもまた同じ。そこから素晴らしい人生が広がっていくことを切に願っている。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは4時間16分。今年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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