五輪を利用した国威発場はもういらない
2022年02月21日 05:30
五輪
たくさんの涙もあった。
驚異的なスタミナでメダルを量産したスピードスケートの鉄人、高木美帆。
大ジャンプを連発して豪快なアーチを描いた小林陵侑。
どんな時でも笑みを絶やさず、最後の最後に夢の舞台を手に入れたロコ・ソラーレ。
他の選手たちもみんな頑張った。
でも、彼ら彼女らのメダルは1人だけの力で獲ったものではない。家族や友人、スタッフ、ファン、そして何より隔離されたバブルの中で日本選手団全員が心を一つにして励まし合い、支え合ったからこそ手にすることができた宝物だ。力を出し切った選手も、出し切れなかった選手も、だからみんな堂々と胸を張って帰ってくればいい。
感動の裏側では、五輪が抱えている矛盾や問題点も表面化した。
3度目の五輪でついに世界の頂点に立ったスノーボード・ハーフパイプの平野歩夢は、不可解な採点に「選手は命を張って競技をしている」と訴えた。
会心のジャンプの直後にまさかの失格を宣言されて泣き崩れた高梨沙羅は、インスタグラムに真っ黒な画像を掲載。選手の謝罪を巡る議論は社会問題にまで発展した。
そしてフィギュアスケートのドーピング違反。禁止薬物が検出されたにもかかわらず、15歳のカミラ・ワリエワ(ROC)の出場を認めたスポーツ仲裁裁判所(CAS)の判断や国際オリンピック委員会(IOC)の対応は、五輪史に残る汚点として永久に人々の記憶に刻まれるだろう。
幸い、恐れていた新型コロナウイルスの集団感染は発生しなかった。中国のバブル方式は確かに機能した。だがそれは、当局が選手や関係者の自由を極端に制限し、外部との接触を完全に遮断したことの証明でもある。観客は国内だけに限られ、選ばれた一部の人たちだけが決められた応援を繰り広げた。
「一体誰のための、何のための五輪なのか?」。その答えは、灼熱(しゃくねつ)の東京でも、酷寒の北京でも示されることはなかった。宴(うたげ)が終わった今、一つだけ言えることは「大国が国威発揚のために利用する五輪はもういらない」ということだけだ。
五輪期間中は戦争をしないという「休戦決議」はかろうじて守られた。だが、一歩バブルの外へ出れば、ウクライナとロシアの国境では今も一触即発の状態で両軍が対峙(たいじ)し、ミャンマーやアフガニスタンでは市民への弾圧が続く。外交ボイコットにもかかわらず中国の人権問題は何の進展もなく、新型コロナウイルスは依然として収束のめどが立たない。
それでも私たちはまた今日から、前へ向かって進んで行かなくてはならない。2年後のパリ夏季五輪、4年後のミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪で再び聖火が輝く頃には、今よりもっと素晴らしい世界になっていることを信じて――。(特別編集委員)
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