ウクライナ問題に見る北米プロスポーツ界の困惑と違和感 目の前に広がる不透明な未来
2022年02月22日 10:27
バスケット
レンは昨季、八村塁(24)が所属しているウィザーズと渡辺雄太(27)のいるラプターズでもプレー。すでに5チームを渡り歩いているが、今後直面する“人生の旅”は難しいものになるかもしれない。
渡辺とラプターズで今季チームメートになったスビアストラフ(通称スビ)ミハイルーク(25)は米国の人たちになかなか正確な発音をしてもらえず、どんなに耳を澄ませても「MYKHAILIUK」は「マハイルーク」に聞こえてしまうのだが、本人は気にしていないようだ。
ただ彼もレン同様にウクライナの出身。米国のカンザス大から2018年のドラフトで2巡目(全体47番目)に指名された選手だが、出身地はウクライナ中部のチェルカッシィで、そこは第二次世界大戦でのドイツ軍とソ連軍が激突した場所でもある。
米国以外の出身選手はオフになれば家族のいる母国に戻ることだろう。しかしレンとミハイルークはその当たり前と思われてきた“日常”を失いつつある。北京冬季五輪ではロシアとウクライナの選手が健闘を称え合う場面もあったが、ロシア選手不在のNBAではそんなアピールの場もない。スポーツは常に政治に影響を受け続けてきたが、NBAもその例外ではないのだ。
北米アイスホッケーリーグ(NHL)には今季ウクライナ出身の選手は登録されていない。その一方で、米国の首都ワシントンDCを本拠にしているキャピタルズに所属しているアレックス・オベチキン(36)らを含むロシア出身の登録選手は50人以上。今後、ロシアがウクライナに侵攻すると、彼らの北米における“立ち位置”は微妙なものになる。「米国のファンがロシア出身の選手を心から応援できるのか?」。どんなに政治とスポーツは別だと割り切っていても、そこにはすっきりしない不透明な未来が広がっている。
「作詞・北野武(ビートたけし)、作曲・玉置浩二」で1993年にリリースされた「嘲笑(ちょうしょう)」という曲はこの2人がともに歌っている。冒頭の歌詞は「星を見るのが好きだ…」。そしてどんなに時間が経過しても姿が変わらない夜空を、大切なものは普遍なのだという世界観につなげている。
その星がきらめく宇宙に視線を移して地球という小さな星を眺めると、どんなに権力を持っていようが、あまりにもミクロでちっぽけな存在でしかない。そして権力者も庶民も結局のところ、視線を上に持っていけば過去も現在も、そして未来に及んでも同じものを見ている…。そう思うと愉快でもあり、だからこそ、たけしさんは「星」ではなく「嘲笑」というタイトルをつけたのかなあ、と思ったりもする。
スポーツの世界は脆弱だ。人間が勝手に設けた国境が回り回って圧力をかけてくる。新型コロナウイルス感染拡大に伴う混乱からようやく抜け出そうとしている2022年。多くの人間が“タイムアウト”の輪に入り、問題を無事に解決することを祈っている。そして権力者と呼ばれる人はまず星を眺めてはもらえまいか…。一万年前の人が願う平和も今の人が願う平和もほとんど変わりはないのだ。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。
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