「君たちはパンダだ」敵として怖くない、と屈辱的に言われた日本女子フェンサー メダル獲るまでの物語
2024年08月03日 07:00
フェンシング
「やっと終わったという気持ちが強かった。東京五輪が終わってから3年間、メダルのプレッシャーと闘いながらやってきたので、獲れて本当にうれしい気持ちと、安心した気持ちが凄く強い」
開会式で旗手を務めたサーブルの江村美咲をはじめ、女子にもメダル獲得への期待が過去最高レベルに高まって迎えたパリ五輪。ところが個人戦は上野、東、宮脇の3人全員がまさかの初戦敗退。危機的状況で、17年に就任したフランス人のフランク・ボアダン・コーチからは「全然怒ってないけど、がっかりした。でも団体戦は2度目のチャンス。実力を出せば大丈夫」と伝えられ、切り替えた。
選手、母国コーチとして五輪メダルを獲得しているボアダン氏。就任当時、世界ランキング15位だった日本のコーチに就任すると、「君たちはパンダだ」と伝えた。その真意は、「可愛くて、敵じゃない」。対戦相手として見た時の、率直な感想だった。試合中もニコニコし、闘争心を感じない。中世ヨーロッパの騎士道に端を発する競技で、同コーチにとっては受け入れがたいことだった。
代わりに伝えたのは「虎になれ」とのメッセージ。菅原コーチは「表現としては悪いが、相手を殺すくらいの気持ちでやらないと勝てないんだぞ、ということが最初の教えだった」と解説する。意識改革を図って年々成績を上げると昨年の世界選手権では同じメンバーで16年ぶりの銅メダルを獲得。パリでも表彰台にたどり着いた。
歴史の重い扉を開いた4人のフェンサー。ボアダン氏は「ここでは終われない。彼女たちは若く、伸びしろがあり、未来がある。まだ上を目指せる」と早くも28年へ視線を移す。上野も「今後もっと成長して4年後は金メダルを獲得したい」と意欲。パリで開花した美しき花を、ロサンゼルスで満開に咲かせてみせる。 (阿部 令)
《一夜明け会見 上野「報われた」》
○…フルーレ団体の日本代表は銅メダル獲得から一夜明けた2日、パリ市内で会見し、上野は「苦しいことが多かったので、報われたという気持ちが物凄く強かった」と喜びを語った。3位決定戦は1日の夜まで行われ、東は「寝不足のはずなのに、こんなにすっきり目覚められたのは初めてなくらい、いい朝を迎えた」と終始笑顔。宮脇は「一歩前進できた」、菊池は「みんなとうれし涙を流すことができて、本当にうれしい気持ちでいっぱい」と話した。
◇上野 優佳(うえの・ゆうか)2001年(平13)11月28日生まれ、大分県日田市出身の22歳。両親は国体出場経験を持つ元フェンシング選手で小学2年で競技開始。高校2年時に別府翔青高から埼玉の星槎国際高に転校し同年にユース五輪で金メダル。20年に中大に進学し、21年東京五輪では女子過去最高の個人6位。23年世界世界選手権は団体で銅メダル。1メートル60、53キロ。
◇菊池 小巻(きくち・こまき)1997年(平9)2月22日生まれ、熊本市出身の27歳。両親がフェンシング経験者で4歳から競技を開始。4人兄弟の次女で幼少期は兄と姉とともに練習に励んだ。熊本の翔陽高から15年に専大フェンシング部に入部。16年にアジアジュニア選手権で団体優勝。23年世界選手権で団体銅メダル。1メートル60、54キロ。
◇宮脇 花綸(みやわき・かりん)1997年(平9)2月4日生まれ、東京都世田谷区出身の27歳。5歳上の姉の影響で5歳で競技開始。小学4年で全国少年フェンシング大会(小学3~4年女子)で優勝。慶応女高時代の14年にユース五輪大陸別団体戦で金メダル。15年に慶大に進学し、18年アジア大会で団体金メダル。23年世界選手権で団体で銅メダル。1メートル61、53キロ。
◇東 晟良(あずま・せら)1999年(平11)8月20日生まれ、和歌山県出身の24歳。フェンシング選手だった母の影響で小学4年から競技を開始。和歌山北高時代の17年に全日本選手権で個人初優勝。18年に日体大に進学し、同年夏のアジア大会で女子団体で初の金メダル。同年11月W杯で個人銀メダル。21年東京五輪に姉の莉央とそろって出場。23年世界選手権は団体銅メダル。1メートル58、48キロ。
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