【内田雅也の追球】『江夏の21球』のように…スクイズを察知した岩崎 外しにかかった中で無念の悪投

2022年08月15日 08:00

野球

【内田雅也の追球】『江夏の21球』のように…スクイズを察知した岩崎 外しにかかった中で無念の悪投
<神・中>9回1死一、三塁、代打・木下の時に三塁走者・三好の生還を許した岩崎(撮影・奥 調) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神4―5中日 ( 2022年8月14日    京セラD )】 『江夏の21球』のハイライトは江夏豊がスクイズを察知し外した19球目である。1979(昭和54)年の日本シリーズ最終第7戦。9回裏に広島クローザー江夏が投げた21球を山際淳司が雑誌『ナンバー』で描いた。
 1点を追う近鉄9回裏1死満塁。打者・石渡茂の1ストライク後だった。「石渡を見たとき、バットがスッと動いた。来た! そういう感じ。(中略)キャッチャーの水沼が、多分、三塁ランナーの動きが見えたんやろね。立つのが見えた」

 江夏はカーブの握りのまま外角高めに外し、石渡は空振り、三塁走者を刺した。最後は空振り三振で日本一となった。

 この夜の阪神・岩崎優もスクイズを察知するまでは江夏と同じではなかったか。4―4同点の9回表1死一、三塁。打者・木下拓哉1ボール2ストライクから、バントの構えが見えた。岩崎はとっさに外しにかかったのだろう。ところが、その投球はあまりに高く、打者も捕手・梅野隆太郎もジャンプしたが届かなかった。暴投(記録は本盗)で三塁走者が生還し、決勝点となった。

 江夏は若いころ、金田正一に教わった「投げる前にバッターを見ろ」を実践していた。同じ左腕の岩崎も俗に言う「球持ち」が長いフォームで打者を見る余裕がある。だから外そうとしたのだろう。無念の悪投だった。

 今季3度目の6連敗で借金3。Bクラスに落ちた。相変わらず失策が出て失点に絡み、得点は犠飛と本塁打だけで適時打は延々出ていない。

 コロナ禍で大山悠輔、近本光司、中野拓夢ら主力を欠き、残る主力や控え選手も歯車が狂った。お先真っ暗である。

 精神論を書く。きょう15日は――もちろん終戦の日でもあるが――元近鉄球団取締役だった梶本豊治の命日である。88年、食道がんのため50歳の若さで逝った。

 野球記者出身。74年、近鉄監督に就任する西本幸雄の強い要請を受けて転職、入団した。

 梶本が口癖にしていたのが「いま全力」である。「過ぎ去ったことは考える必要はありません。いまは将来のために全力を尽くしましょう」。西本や後の近鉄監督・岡本伊三美を支えた。

 『21球』で敗れる西本だが七転八起が身上だった。いまの阪神に通じる心である。=敬称略=(編集委員)

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