【内田雅也の追球】「T」安打と「A」打球 快打正面は不調への、凡飛が安打は好調への入り口

2023年03月18日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「T」安打と「A」打球 快打正面は不調への、凡飛が安打は好調への入り口
<ヤ・神>初回、小川(左)から三塁打を放つ大山(撮影・木村 揚輔) Photo By スポニチ
 【オープン戦   阪神8―0ヤクルト ( 2023年3月17日    神宮 )】 スコアで安打をつける時、ふらっと上がった打球が野手の前や横にポテンと落ちた場合、「T」の文字を添えている。小学5年時、初めて手にしたSO社のスコアブックにあった書き方だ。
 テキサス安打の頭文字だ。もとは米俗語でテキサスリーガーズヒットである。1889年、マイナーリーグ・トレドの左打者アーサー・サンデーがこの手の安打を量産し3割8分9厘の高打率をあげた。出身が今の2A級テキサスリーグだったため語源となった。

 阪神はこの「T」付き安打が目立った。1回表2死一塁で大山悠輔のフライが右翼線に落ちる先制三塁打となった。「T9」である。続く佐藤輝明の左翼線寄りフライも前進する左翼手の前に落ちる「T7」の適時打となった。2回表無死一塁で梅野隆太郎のフライも「T7」二塁打だった。

 一方、阪神先発の青柳晃洋はバットの芯でとらえられた快打が野手の守備範囲内によく飛んだ。1回裏先頭、丸山和郁の二ゴロは強い打球だった。3回裏1死、同じく丸山和の中飛、さらに2死満塁から宮本丈の右中間寄り右飛はともにライナー性だった。抜けていれば走者一掃だったろう。

 スコアラーがよく言う「A打球」だった。同じ凡打でもABCとランク付けし、芯でとらえた安打性は「A」である。結果ではなく、打撃内容から判断する意図がある。

 開幕投手の指名を受けた青柳は5回無失点、同じく開幕投手候補の小川泰弘は4回5失点と明暗が分かれた。

 野球統計学には「インプレー打率」と呼ぶ「BABIP」という指標がある。説明は省くが「投手は打球の結果をコントロールできない」との仮説がある。つまり、青柳や大山、佐藤輝は幸運で小川や丸山和、宮本は不運というわけだ。

 そうだろうか。伊良部秀輝はA打球で打ち取った時に好調を感じ「きちんとしたフォームで投げていれば、いい当たりをされても野手の守っているところにボールは行く」と語っていた。長年、代理人を務めた団野村の『伊良部秀輝――野球を愛しすぎた男の真実』(PHP新書)にある。

 一方、古くは長嶋茂雄や落合博満、イチローらは体勢を崩されても安打コースに打球を飛ばす技術を持っていた。快打正面は不調への、凡飛が安打になるのは好調への入り口だとするのが野球人の感覚である。結果論ではない。=敬称略=(編集委員)

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