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バド世界ランク1位・ナガマツ 異色長身ペア、結成は偶然 言葉のラリーで急成長

2019年07月03日 09:30

バドミントン

バド世界ランク1位・ナガマツ 異色長身ペア、結成は偶然 言葉のラリーで急成長
ナガマツペア。手前が松本、後方が永原 Photo By スポニチ
 【2020 THE TOPICS キーパーソンに聞く 】 バドミントン女子ダブルスで異色の長身ペアが、急成長を遂げている。秋田の北都銀行に所属する永原和可那(23)、松本麻佑(23)ペアは昨夏の世界選手権を初出場で制し、一躍、ブレークを果たした。現在、世界ランキング1位で20年東京五輪の金メダル最有力候補。本人たちや指導者の証言を基に、世界ランキング1位に上り詰めた成長過程に迫った。
 群雄割拠の女子ダブルス界で、頭一つ抜けたペアがいる。永原、松本の通称「ナガマツ」ペアだ。繰り上がりで初出場した昨夏の世界選手権で優勝。勢いを維持し、今年4月30日付の世界ランキングで初の1位に立った。女王の座を維持し続けている2人は、東京五輪の頂点に一番近い存在だ。

 2人の身長は松本が1メートル77、永原が1メートル70。女子ダブルスでは異色の長身コンビだ。2人が持つ武器は、高角度から打ち下ろすショット。高身長の選手が後衛というのがセオリーだが、ともに1メートル70超の2人は変幻自在に配置を変える。松本は「世界で通用するプレーを探った結果、このプレースタイルが合っている」と言い、永原も「攻撃をしていけば世界に通用する自信がある」とうなずく。

 異色ペアの結成は偶然だった。同学年で出身は北海道。小学生時代から「顔見知り」(永原)程度だったという。道内の中学卒業後、永原は名門・青森山田高(青森)の門を叩き、松本は地元・とわの森三愛高へ。それぞれの道を歩み、全国大会で活躍。だが、2人とも思うように進路が決まらない。そこへ当時、北都銀行の原田利雄監督(現総監督)が2人に声を掛け、運命の歯車が動きだした。

 高校卒業後の14年、2人は北都銀行に入社。松本は「(永原が)来ることは全く知らなかった」と振り返る。ほどなくして、指導者たちの「組ませたら面白いのでは?」という仮説のもと「ナガマツ」という長身ペアの化学反応が生まれた。

 船出は前途多難だった。2人とも寡黙な性格、そして互いに積み重ねてきたプライドが意思疎通の邪魔をする。結成当時から指導する三好奈緒コーチ(38)は「お互い譲らないといけない部分が譲れない。伝え合うことができず、ケンカまで行きつかない。ダメな時は、それぞれがコートの中でふてていた」と苦笑いする。結成間もない同年7月のロシア・オープンで準優勝する爆発力もあったが、感情に起伏のある2人は安定感を欠いた。

 その最たる例が、福岡県北九州市で行われた15年8月の全日本社会人選手権。北都銀行勢として初優勝を目指したが、2人は準々決勝で格下相手にころっとストレート負け。コート脇からの助言に耳を傾ける余裕もなかった。三好コーチはあきれて何も言わず、当時の原田監督は「何をやっているんだ!」と激怒した。「松本はショットを打ちたい。永原は早く試合を決めたい。コミュニケーションを取らず、ミスのオンパレードでした」と三好コーチ。足元を見つめ直すきっかけだった。

 精神面の起伏に加え、得意の強打一辺倒で通用するほど甘くない。北都銀行ではレシーブ強化の特別プランが練られた。3時間の練習をぶっ通しでレシーブに費やす。2人のコートの対面に配置された男子2人を含む4人から前後左右へ鋭いショットが飛ぶ。シャトルをはね返し続ける過程で、技術面だけでなく2人の意思疎通も活発になった。筋力強化も行い、細い大根のようだったという松本の筋力も安定。16年に日本B代表入りしたナガマツは、軸足を世界へと移していく。

 軌道に乗った2人に、さらなる転機が訪れる。男子シングルスでロンドン五輪8強、リオデジャネイロ五輪出場の佐々木翔監督(37)が現役引退後の16年11月に北都銀行で指導を始めた。東京五輪出場を目指すナガマツにとって、グレードの高い大会に優先的に派遣される日本A代表への昇格は不可欠。そこで佐々木監督は17年のシーズンを「A代表への下準備」をテーマに掲げた。

 一流選手になるために、必要な要素を感じ取ってほしい。それが指導方針だった。17年6月の台北オープンに佐々木監督が初めて海外遠征に同行し、「3人で毎食、一緒にご飯を食べた」と振り返る。プレーだけでなくコート外の過ごし方や体のケア、メンタルの準備…。気づいたことを逐一、全て伝え続けた。「2人は“五輪を目指す”と言っているが、方向性が違うと言い続けてきた」と指揮官。大舞台で力を十分に発揮できるようになるため、オリンピアンのエッセンスが注入されていった。

 ナガマツが特に注意されたのが、練習への姿勢だった。試合を想定した練習の5分前に、準備もせずに2人が座ったままだったことがあった。練習に向かう精神状態が違えば、試合にも当てはまる。「感情で変わるのでなく軸を持つ。五輪は大きなもの。感情に押しつぶされてしまうよ」。指揮官との対話一つ一つが、2人の血肉となった。

 18年に念願のA代表へと昇格。代表活動中に他のA代表ペアと常に練習できる環境となり、その力はさらに磨かれた。同年の全英オープンで3位。さらに、他国選手の出場辞退により初出場した世界選手権で女王に輝いた。北都銀行で費やした周到な準備、強固な土台があるからこそ、夢舞台へ力強く進むことができる。

 女子ダブルスの日本勢は2大会連続でメダルを獲得。東京五輪でも懸かる期待は大きい。永原は「人生で一番の目標。夢をかなえたい」と言い、松本も「夢であり目標。自分たちで壁を越えていく」と誓った。強力な“ツインタワー”には、まだ計り知れない伸びしろがある。

 ≪五輪出場枠は世界ランク上位2組まで≫日本の女子ダブルス出場枠の上限は2枠。今年4月から始まった1年間の選考レースを経て、20年4月28日発表の世界ランク上位2組が五輪切符を獲得となる。現在ナガマツがトップを走るが、世界ランク2位のフクヒロ、リオ五輪金メダルのタカマツらと、し烈な競争を繰り広げている。

 格付けは世界ツアーなどの大会の獲得ポイントで決まるが、佐々木監督は「7月が一つのヤマ場」と指摘する。グレードの高いインドネシア、ジャパンOPが控え、8月に世界選手権が待つ。「11月までにほとんど大きな大会が終わる。半年で(レースの)メドがつく可能性がある」と指揮官。夏に女王の地位を守れるかが、ナガマツの分岐点となる。

 松本は「マークされていると感じる」と世界トップとしての苦悩を明かし、永原は「日本人対決が重要だったけど、他国が研究している。他国にしっかり勝つことが大事」と警戒を強めている。

 ◆永原 和可那(ながはら・わかな)1996年(平8)1月9日生まれ、北海道河西郡芽室町出身の23歳。芽室小からバドミントンを始め、全国小学生選手権5年の部女子ダブルスに出場。芽室中から青森山田高へ進学。13年全国高校総体では女子ダブルス、団体戦とも優勝した。趣味は買い物と温泉。1メートル70、60キロ。血液型B。右利き。

 ◆松本 麻佑(まつもと・まゆ)1995年(平7)8月7日生まれ、札幌市出身の23歳。小学生時代に地元の遊羽クラブで競技を始める。厚別南中から、とわの森三愛高へ進学。13年全国高校総体ではシングルス、ダブルスともベスト8。ナガマツペアとしては19年アジア選手権準優勝。趣味は長時間睡眠。1メートル77、69キロ。血液型A。右利き。

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