新城幸也、ペダルを止めるな!第一人者、3度目の挑戦
2020年12月09日 05:30
自転車
「もっと自転車競技を知ってほしい。開会式翌日(21年7月24日)のオリンピック熱が高い時に競技が行われ、メダルを獲ればもっと注目してもらえる。日本の皆さんに日本人が頑張っているのを見てもらいたい」
過酷を極めるロードレースをシンプルに捉える。「その日に一番強い人が勝つ」。東京五輪のコースも気候条件、レース展開などによって誰にでもメダルのチャンスがある。「もし僕がイメージするようにレースできたら、僕はメダルを獲っています」。一発勝負の大舞台へ1カ月4000キロ、年間3万キロという途方もない練習量で強化を進めてきた。
絶望からはい上がった。リオ五輪後は毎年のように負傷を繰り返し、19年3月のタイ合宿最終日に飛び出してきた犬をよける「不慮の事故」で落車。左肘頭骨(ちゅうとうこつ)骨折、左大転子部裂離骨折で、左肘にメスを入れた。19年1月から始まった五輪選考レースでは出場枠の上位2人からはじき出され「思うようにポイントが取れなかったので、この一年は五輪に関してはフラストレーションがたまった」と振り返る。
今年3月にはコロナ禍で国際レースが中断され、選考レース対象期限も5月末から10月中旬に変更された。フランスのロックダウン直前に練習環境の整うタイ・チェンマイへ移動。日本人夫婦が営むなじみのゲストハウスを拠点に、静かに再開の時を待った。普段は200キロほど走る練習を3日連続で行い1日休むが、練習と休日を1日おきに変更。状態維持に努めた。6月末に8月からのレース再開が決定すると、一気にギアを入れた。「コロナでいつレースが止まるか分からなかったので、全レースを全力で走った」。本格復帰でポイントを重ね、日本人トップで五輪切符を手にした。
新城は高校までハンドボール一筋。自転車は年に1度、地元の石垣島で行われるトライアスロン大会でまたがる程度だった。体育教師を目指し、高校3年の03年に大学入試を受けたが失敗。ロードの競技者だった父・貞美さんの友人であるプロ選手の福島晋一から才能を見込まれ、浪人生活を送るはずの新城は本場フランスで自転車修業する道を選んだ。
03年4月から福島の拠点ノルマンディーで実力を蓄えた。「ホームシックはなかった。寝て起きたら強くなっていて、完全に楽しんでいた」。挑戦2年目の05年全日本選手権のU―23部門でいきなり優勝。国内で無名の逆輸入ライダーは「しんじょうこうや」と言い間違えられた。
4年目の06年に日本のプロチームと契約。同年、08年とフランス伝統レース「ツール・デ・リムザン」で総合3位に2度入ったサムライは欧州の関係者たちに注目された。08年12月に国際自転車競技連合が主催する世界ツアーを戦う「Bbox ブイグテレコム」と契約し、スターダムを駆け上がっていく。
09年に最高ステータスの「ツール・ド・フランス」を日本人初完走。約3週間で3000キロ以上を走る過酷なレースを7度完走している。12年大会の第4ステージでは敢闘賞に輝き、日本人初の表彰台にも立った。シーズン成績の査定が行われる1年契約。「毎年、25~30人で構成される18チームの中に所属しないといけない」。移籍を経験しながら10年以上も超一流の世界に身を置いている。
第二の故郷での24年パリ五輪出場も狙うが、東京五輪は特別な場所だ。「競技の果てはない。自分の体が燃え尽きるまでやるしかない」。日本のトップライダーが、栄光のロードを駆け抜ける。
▽五輪の男子ロードレース 1896年の第1回アテネ大会から正式種目に採用。東京大会のコースは武蔵野の森公園から富士スピードウェイまで1都3県にまたがる総距離約244キロ。完走まで7時間ほどで「終盤の三国峠と富士山が勝負」と新城。獲得標高(上りの合計)は富士山(3776メートル)やマッターホルン(4478メートル)よりも高い4865メートル。日本勢の最高順位は92年バルセロナ大会での藤野智一の21位。日本からは新城と増田成幸(37=宇都宮ブリッツェン)が出場。
◆新城 幸也(あらしろ・ゆきや)1984年(昭59)9月22日生まれ、沖縄県石垣市出身の36歳。八重山高卒。ツール・ド・フランスのほかジロ・ディタリア3度、ブエルタ・ア・エスパーニャ3度を合わせた世界3大レース「グランツール」を計13度完走。10年世界選手権9位。21年もバーレーン・マクラーレンと契約更新。趣味はモータースポーツ観戦。1メートル70、65キロ。
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