歴史に残るミラクルショット 岩井明愛の片手打ちチップインバーディーを生み出したもの

2023年06月21日 12:29

ゴルフ

歴史に残るミラクルショット 岩井明愛の片手打ちチップインバーディーを生み出したもの
<ニチレイレディース・2日目>9番、コースレコードを更新しギャラリーの声援に応える岩井明(撮影・藤山 由理) Photo By スポニチ
 【福永稔彦のアンプレアブル】女子ゴルフのニチレイ・レディースは山下美夢有(21=加賀電子)の完全優勝で幕を閉じたが、昨季年間女王と並び大会を盛り上げたのが岩井ツインズの姉・岩井明愛(20=Honda)だった。
 初日72で回り、首位と7打差の58位と出遅れた岩井明は第2日に猛チャージを見せる。「裏街道」と呼ばれる10番からスタート。3連続バーディーで滑り出し、30でハーフターン。後半も4番から3連続バーディーを奪うなど合計10バーディー。大会コースレコードを1打更新する62をマークし、2位に急浮上した。

 「やってやるぞという気持ちで挑みました。バーディーを何個取ったか分からないくらい集中していた」。会見に出席した岩井明は満足そうに話した。

 最終日は首位の山下、そして3位の妹の岩井千怜(20=Honda)と最終組で回ることになった。姉妹の最終日最終組対決はツアー史上初。しかも千怜が優勝した5月のRKB×三井松島レディースのプレーオフと同じペアリング。ファンの注目は最終組に集まった。

 前半の主役は、山下を4打差で追う岩井明だった。1番でバーディー発進して3打差に追い上げ、山下が伸ばした5番でもバーディーを奪い追走した。

 そして、最大の見せ場は8番パー4だ。第2打はグリーン奥のラフに転がり、バンカーの縁に止まった。普通にスタンスを取るには、右足を深いバンカーに入れなければいけない。左打ちも試したが、岩井明が選んだのは片手打ちだった。

 「パッと思いついたのがバンカーに足を入れてクラブを短く持って打つか、片手打ちだった。確率的にどっちが高いか考えて、片手打ちの方が打ちやすかったので選択した」

 体を開いて構え、右手だけで54度のウエッジを握り、低く打ち出した。ボールはグリーン面を下り、14ヤード先のカップに収まった。日本女子プロゴルフ協会関係者も「見たことがない」と証言するミラクルチップインバーディー。グリーンを取り囲んだ観客からはどよめきと大歓声がわき上がった。

 「こんなことがあるんだと思った。楽しかった」。岩井明はまるで他人事のように話した。むしろ同組の2人の方が驚いていた。

 この時点で2打差に詰め寄られた山下は「あれはほんまに凄かった。勢いが凄かったし、片手打ちで入ったのも凄いなと思って、自分もバーディーを取りたいという気持ちになった」と脱帽した。

 妹の千怜は「片手打ちはリスクがあると思った。シャンクも、チャックリも、トップもありそうだし、うまく出るのかなと思ったけど、見事に綺麗に打ったので“魅せるな”と思った」と称賛を惜しまなかった。

 岩井明は元々、抜群の運動神経の持ち主だ。幼少期からゴルフと並行して陸上競技にも取り組み、小学生時代には地元サッカークラブでプレーした経験もあり、今でもリフティングを軽々とこなす。

 昨オフには所属先Hondaの硬式野球部の練習に参加し、打撃練習では綺麗なバッティングフォームで強烈な打球を打ち返し、守備では軽快なフットワークと巧みなグラブさばきを披露した。

 ただミラクルチップインバーディーは、センスだけで生み出したものではない。試合で片手打ちをやったのは初めてだが、必ず練習前に行うメニューであり「そんなに珍しいことではない」という。日々の積み重ねがあるからこそ、寄せるイメージができたのだ。

 岩井姉妹は常々「見ている人を楽しませるプレーをしたい」と話している。振り返ってみれば、RKB×三井松島レディースのプレーオフでも、岩井姉妹は揃って第2打で1Wを握り、直ドラでグリーンを狙って、ギャラリーの大喝采を浴びた。そうしたプロ意識も片手打ちの選択につながったのだろう。

 最終的に山下を捉えることはできなかった。ただ、ギャラリーを十分に楽しませたことは間違いない。岩井明がこれからどんなプレーを見せてくれるのか。ゴルフファンも、メディアも目が離せなくなりそうだ。(スポーツ部専門委員)

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