【第100回ラグビー早慶戦記念企画】慶大OB玉塚元一氏インタビュー(1)努力をすれば巨象をも倒せる
2023年11月21日 10:00
ラグビー
「慶応はなかなか、花園組(全国高校ラグビー大会の出場経験者)が取れない。どうしても入試の壁があるんです。それでも早稲田や明治に勝つためには、猛練習をするしかなかった。“地獄の山中湖(合宿)”みたいな世界でね。当時、僕らも素質はそれほどないと自覚していました。自分たちが猛練習をするしかないと分かっていたから、ひたすら練習して、最終的に84年には幸運にも早稲田に勝ち、明治にも勝って、対抗戦を全勝優勝することができたんです。それは凄く自信になりましたね。努力をすれば巨象をも倒せる、と。そういう自信になったのは大きかったです」
――83年は2点差で敗れ、84年は1点差の勝利でした。試合の記憶はありますか。
「コマ送りのように覚えています。若林(2年、WTB)が走って行ってトライ。僕はサポートしていましたから、凄く覚えています。(84年は)国立開催で、6万人くらい入っていたでしょ。ぎゅうぎゅう詰めで、歓声が起きると地響きがしましたね」
――玉塚さんにとって、あるいは慶応にとって、早慶戦とはどのようなものでしょうか。
「そもそも100年前に始まっていて(第1回は1922年)、慶応と早稲田は良きライバルで。全体の対戦成績は圧倒的に早稲田が勝っていて頭は上がらないけど(早大の72勝7分け20敗)、やはり野球もそうだしラグビーもそうだし、いろんなところで早稲田には勝ちたいという思いが凄く強いですね。早稲田は憎たらしいくらい強い。強いゆえに、何とか勝ちたいという特別な思いがありますよね」
――試合に向けて、特別な儀式などはありましたか。
「11月23日は、慶応ラグビーの選手にとっては特別な日。1年中、早稲田に勝つことに照準を合わせていました。早稲田にとっては明治かも知れないけどね(笑い)。9月にシーズンが始まり、11月23日にピークをつくる。試合前日は今でもやっているか分からないけど、タックルバッグに早稲田のジャージーを着せて、タックル練習をしたりしましたね。当日朝の緊張感は、凄かったのを覚えています」
――当時の慶応のラグビースタイルはどのようなものでしたか。
「僕らのころは、ひたすらハイパントキックを上げて、ひたすらタックルをするというスタイルでした。早稲田は展開ラグビーで、バックスに能力が高い選手がいて、決定力があった。今のジャパンが目指しているラグビーに近いものがありましたね」
――1、2年の2年間は、早慶戦に出場できませんでした。やはり出場したかったという思いや悔しさはあったのでしょうか。
「試合に出たかったという感覚は覚えていません。でも早慶戦は試合に出場する選手だけではなくて、部員100人全員で戦う試合。慶応だと試合に出る選手は、午後3時か4時には前日練習から上がる。その後、試合に出られない選手が、日が暮れるまでタックル練習をする。“早稲田を倒すぞー!”とか、雄叫びを上げていましたね。それをグラウンドの横の合宿所で、風呂に入ってぬくぬくとしながらも聞くことで、責任を感じるんです。緊張感も高まる。だから部員全員で戦う。そのあたりもラグビーの好きなところで、どんな手を使ってでもレギュラーになるという思いもいいけど、レギュラーになれなくても、みんなで戦うところがラグビーですよね」
――まさに「ワンフォーオール、オールフォーワン」のラグビー精神を体現していますね。
「慶応ラグビーには“花となるよりも根となろう”という言葉がずっとあります。例えばスクラム。プロップが耐えて耐えて、本当にしんどい思いをして、山中湖の合宿でも何百本も組んで、背中(の皮膚)が全部むけちゃうほど練習する。フロントローの選手は本当にしんどい。でも彼らがいるから、日本代表で言えば松島君(のようなバックス選手)のトライが生まれる。花になるのもいいが、根が大事。根をリスペクトしようという考えがあります。レギュラーでフィールドにいることも大事だけど、レギュラーを支える全部員が根となって支える。そういうカルチャーがある。今は企業経営をやっているけど、そうした考えは、組織では凄く重要になりますよね」
=インタビュー(2)に続く=
◇玉塚 元一(たまつか・げんいち)1962年(昭37)5月23日生まれ、東京都出身の61歳。慶応高、慶大でラグビー部に所属し、フランカーとして活躍。85年3月に卒業し、旭硝子、日本IBMを経て、02年に39歳の若さでファーストリテイリング社長に就任。退任後も経営者の道を歩み、21年6月からロッテホールディングス社長。同年10月からはリーグワン理事長も務める。
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