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肉をやめて野菜中心の食事にすべきなのか。菜食主義とアスリートの関係を描いたドキュメンタリー映画『The Game Changers』がおもしろい

2024年08月02日 09:00

肉をやめて野菜中心の食事にすべきなのか。菜食主義とアスリートの関係を描いたドキュメンタリー映画『The Game Changers』がおもしろい
体作りやパフォーマンス向上など目的を問わず、トレーニングを真剣に行う人なら、食事に関する情報にも敏感でしょう。 いくらハ…

体作りやパフォーマンス向上など目的を問わず、トレーニングを真剣に行う人なら、食事に関する情報にも敏感でしょう。

いくらハードに筋トレをしたところで、傷ついた筋繊維に適切な栄養を与えないと効果は薄いと誰もが知っています。

世の中には多種多様なトレーニング理論があるのと同様に、栄養学のアプローチもさまざまです。たとえば以下の理論はトレーニーの間ではよく知られた内容です。

「筋肉を作る材料になるのはたんぱく質。その中でも肉や魚や乳製品などからなる動物性たんぱく質は9種類の必須アミノ酸を含んでいるが、植物性たんぱく質には不足しているものがある。体内の吸収率も動物性たんぱく質の方が植物性たんぱく質よりはるかに高くなる。したがって、筋肉を発達させるには動物性たんぱく質の摂取が欠かせない」

ところが、この常識に真っ向から挑んだドキュメンタリー映画があります。

2019年9月にドイツで公開された、『The Game Changers(ザ・ゲームチェンジャーズ)』です。この映画が、米国のスポーツ愛好者や競技者の間で大きな話題を呼んでいます。

同作品は2018年1月にサンダンス映画祭で発表。2019年9月に1日限定の劇場公開を経て、2019年10月に米・Netflix(ネットフリックス)で一般視聴が可能になると、一気に話題が広がりました。

ネット上には“#gamechangers”や“#thegamechangersmovie”などのハッシュタグでさまざまな反響が寄せられています。

なお、同作品は日本のNetflixでも『ゲームチェンジャー: スポーツ栄養学の真実』という邦題で配信中です。

『The Game Changers』はどんな映画?

菜食主義ダイエットの啓蒙映画である

この映画は、スポーツ選手が肉食を止めて野菜中心の食事をすることでいかにパフォーマンスが上がるかという、菜食主義ダイエットの啓蒙映画です。

しかし、ダイエットや健康よりスポーツ面にスポットを当てていることに大きな特徴があります。

この映画のテーマでもあり、繰り返し強調される言葉が「Plant-based Diet(植物由来の食生活)」です。ベジタリアンとかビーガンなどと呼ばれる菜食主義とほぼ同意ですが、宗教的な信条あるいは哲学的な意義はあまり強調されません。

それよりも、身体的な影響が重視されます。

ベジタリアンやビーガンがライフスタイルそのものを指すとしたら、Plant-based Diet(植物由来の食生活)は広義のダイエット法(食生活)のひとつだと言ってよいでしょう。

もちろん効果や安全性については、あらゆる方面からの賛否両論がありますが、ここではその詳しい説明や是非を論じることはしません。

肉食を重視するクロスフィットジムに大きな影響を及ぼした

この映画は、クロスフィットのジムにも大きな驚きをもたらしました。

なにしろクロスフィット創始者のグレッグ・グラスマン氏によるクロスフィットの原則は「肉、野菜、ナッツと種子類、少量の果物、わずかなデンプン質を摂り、砂糖は摂らない。食事は運動をするために必要な量だけ摂取し、体脂肪にならない程度に抑える(以下略)」とあり、トレーニングよりも肉を食べることから始まっているのです。

この原則はクロスフィット指導員がライセンス講習で最初に習う言葉であり、また多くのジムの壁にポスターにされて貼られてあります。

その金言が冒頭から否定されたわけですので、クロスフィッターたちにとっては今まで疑いもなく信じてきた常識を根底から覆す、まさに革命的な内容だったのです。

ナレーターを務めるのは、元総合格闘技家のジェームス・ウィルクス氏

映画の製作者に名を連ね、ナレーター役も務めたのが、元総合格闘技家のジェームス・ウィルクス氏です。

ウィルクス氏は最高峰UFCでのキャリアをもつトップ格闘家であると同時に、米軍特殊部隊のインストラクターでもある人物。怪我が原因で引退を余儀なくされた氏は、栄養学について学び始めます。

映画『グラディエーター』で有名な古代ローマの剣闘士たちの食事が、ほぼベジタリアンだったことを知って驚いたウィルクス氏。世界中の菜食主義をとるアスリートや科学者を訪ねてまわります。

同時に自身でもPlant-based Diet(植物由来の食生活)を試し、持久力と回復力が大幅に向上したことを報告しています。

ウィルクス氏の実体験と氏が行った数多くのインタビューが、この映画の骨子になりました。

菜食主義のアスリートたち

なお、映画中に登場するアスリートは、以下の通りです(順不同)。

みなそうそうたる実績の持ち主であると同時に、専門とするスポーツは非常に幅広い分野にまたがっています。

映画中では彼ら彼女らが、それぞれ菜食主義を取り入れている理由や効果について語ります。

  • ルイス・ハミルトン(F1ドライバー、ワールドチャンピオン6回)
  • パトリック・バブーミアン(ストロングマン選手、世界記録保持者)
  • ドッツィー・バウシュ(自転車トラック競技選手、五輪銀メダリスト)
  • ニマイ・デルガド(プロ・ボディビルダー)
  • ケンドリック・ファリス(重量挙げ選手、米国記録保持者)
  • ブライアント・ジェニングス(プロボクサー、世界ヘビー級王者挑戦者)
  • スコット・ジュレック(ウルトラランナー、ウェスタンステイツ100マイルレース7連覇)
  • モルガン・ミッチェル(陸上400メートル走選手、オーストラリア五輪代表)
  • デリック・モーガン(元アメフト選手、NFLテネシー・タイタンズに9年在籍)

元ボディビルディング世界チャンピオンで俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏も登場。

シュワルツェネッガー氏は映画の中で「肉を食べるのが男らしいってイメージがCMなどで広がっているけれど、それはマーケティングによるものだ。事実に基づいているわけではない」と語っています。

出演はしていませんが、製作者にはプロテニスのノバク・ジョコビッチ選手とプロバスケットボールのクリス・ポール選手が名前を連ねています。

また、総合格闘技のニック・ディアズ選手も、菜食主義アスリートの1人として映画中で紹介されています。

筋肉を必要とするアスリートの中にも菜食主義がいる

長距離走やトライアスロンなどの耐久系スポーツは体重が軽い方が有利なので、菜食主義であってもそれほど不思議ではありません。

しかし、この映画には巨大な筋肉を必要とするはずのパワー系の競技者も多く登場することに注目したいと思います。

中でも極めつけなのが、ストロングマン競技のパトリック・バブーミアン選手でしょう。

2005年から菜食主義を取り入れたバブーミアン選手は、2015年に「ヨーク・ウォーク」と呼ばれる競技で560キロの重さを担いで歩き、自身が持つ世界記録を更新しました。

映画の中でバブーミアン選手は印象的な言葉を残しています。

「“どうしたら君は肉を食べずにそんな牡牛のように強くなれるの?”って尋ねられたことがあるよ。そのときに、“君は牡牛が肉を食べるところを見たことがあるかい?”って答えたさ」(パトリック・バブーミアン)

革命的な発見かエセ科学かは自分が判断する

この映画の主張するところは、革命的であり衝撃的でもあります。そのため、必ずしも万人に受け入れられているわけではありません。にわかには信じられない人、あるいは反発する人も数多くいます。

製作者の1人である映画監督のジェームズ・キャメロン氏がエンドウ豆食品会社を経営していることを指摘し、この映画はそのビジネスの宣伝ではないかと非難する人もいるようです。

また、アーノルド・シュワルツェネッガーも現役ボディビルダーの頃は肉食で体を大きくしたのであって、菜食主義者になったのは年をとってからではないかと反論する人もいます。

上にも述べたように、ここではPlant-based Diet(植物由来の食生活)の是非は論じません。ぜひ映画を観て考えてみてください。

制作・主演のジェームス・ウィルクス氏が調査を進める上で拠り所とした、故ブルース・リーの言葉で、本記事を締めくくります。

「自分で体験したことを調べて、使えるものを吸収して、使えないものを切り捨てて、そして自分だけの知識を身につけなさい」(ブルース・リー)

・ゲームチェンジャー: スポーツ栄養学の真実
https://www.netflix.com/jp/title/81157840

筆者プロフィール

角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani 

<Text:角谷剛>

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