【内田雅也の追球】「ノースリー」快打の価値 緊張感と集中力を高めた糸井の二塁打、佐藤輝の本塁打

2021年03月17日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「ノースリー」快打の価値 緊張感と集中力を高めた糸井の二塁打、佐藤輝の本塁打
<ヤ・神>3回2死二塁、阪神・糸井は適時二塁打を放つ (撮影・平嶋 理子)                                               Photo By スポニチ
 【オープン戦   阪神9ー6ヤクルト ( 2021年3月16日    神宮球場 )】 カウントコールをアメリカなど国際基準に合わせ、ボールを先に言うようになって久しい。プロ野球は2010年から、高校野球は先に1997年から採用している。
 ただ、3ボール0ストライクだけは昔風に「ノースリー」と呼びたくなる。「スリーボール、ノーストライク」ではどうも雰囲気が出ない。

 打者絶対有利のノースリーなのだが、カウント別の打撃成績はあまり芳しくない。昨年の阪神で言えば、チーム全体で11打数2安打、打率1割8分2厘。66四球だった。

 何も阪神に限らない。ノースリーでベンチの指示が「打て」でも多くはボールで四球となるか、打ってもファウルや凡打が目立つ。なぜだろう。

 <ボールを強く叩きすぎたり(中略)悪球に手を出してしまったこともよくあるのだ>と、大リーグ歴代2位の通算755本塁打を放ったハンク・アーロン(ブレーブスなど)が著書『ホームラン・バイブル』(ベースボール・マガジン社)に記している。<だから私は、3ボール2ストライクか3ボール1ストライクの時に打つ方が好きだ。(中略)ミートすることを一番心がけるからだ>。要するに力みすぎるというわけである。

 カウント3―0でアーロンはわずか5本塁打。通算868本塁打の王貞治(巨人)も6本しか本塁打を放っていない。王はノースリーからはほとんど振らなかった。「あと1つで塁に出られるという意識があった」と振り返っている。V9巨人に流れていたチームワークの精神もあったろう。辛抱や我慢で通算2390四球を選び、静かに一塁に歩いた。

 そのノースリーから、阪神の糸井嘉男、新人・佐藤輝明がノースリーから見事な打撃を見せた。糸井は外角寄り高めツーシームを2点二塁打、佐藤輝は胸元速球を2点本塁打を放ったのだ。

 ともに打ち気は満々だが、力みはなかった。ややボール気味を打ちに出た糸井はポジション争いの最中にあり、“四球で歩いていては評価が上がらない”と打ってアピールする思いも強かったことだろう。いかに力を抜くかは野球に限らず、スポーツの大きなテーマだが、彼らは平然と、正確に一撃で仕留めたのだった。

 ただし、状況的に楽な場面だったのは確かだ。オープン戦で、すでに大量リードしていたからだ。

 もちろんオープン戦といえども、ノースリーから快打するのは簡単ではない。糸井は12日の西武戦(甲子園)で右前打しているが、佐藤輝は6日のソフトバンク戦(ペイペイ)で大きな中飛に凡退している。大山悠輔は7日のソフトバンク戦(ペイペイ)でファウルと打ち損じ、高山俊は2月28日の練習試合・ヤクルト戦(浦添)で中直と不運にあっている。

 開幕まであと10日を切り、臨戦態勢を強めるころだ。4回表で9―0となった展開では緊張感が緩みかねないが、最後まで凡プレーはなかった。

 加えて、開幕戦をあたるヤクルトが相手、場所も神宮。開幕前哨戦だった。

 点差に関係なく、走者二塁で外野陣は前進守備を敷いた。接戦を想定してのことだろう。相手のヤクルトも同様だった。ヒットエンドランや盗塁も同じ意図だろう。

 つまり、首脳陣はできるだけ本番に近い緊張感を作りだそうとしていたわけだ。選手たちも本番の心境に自分を追い込もうとしていたはずだ。

 ならばノースリーからの一撃の価値も上がる。力みがなかったのは、気楽に振ったのではなく、集中力を高めていたのだとみておきたい。=敬称略=(編集委員)

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