神宮彩るおなじみの声の持ち主が大切にしていること 球場に優しい言葉があふれれば…

2024年08月28日 08:00

野球

神宮彩るおなじみの声の持ち主が大切にしていること 球場に優しい言葉があふれれば…
スタジアムDJのパトリック・ユウさん Photo By スポニチ
 ヤクルトの背番号「810」と聞かれて、すぐに名前が出てくるあなたはかなりの“スワローズ通”です。答えは神宮球場のスタジアムDJを務めるパトリック・ユウさん。声を聞けば「あの声の人だ!」と思い出す野球ファンも多いのではないだろうか。
 神宮名物の「傘振り応援」はもちろん、絶大な人気を誇るマスコットキャラクター・つば九郎の“フリップ芸”や「空中くるりんぱ」などのパフォーマンスも有名だが、スタジアムを盛り上げるパトリックさんの声もまた神宮球場には欠かせないピースだ。記者は仕事がら全国各地の野球場を飛び回るが、聞き慣れたホームの“美声”得も言えぬ安心感を与えてくれる。

 米国人の父と韓国人の母を持つパトリックさんは、「神宮の杜」のお膝元でもある渋谷区千駄ケ谷で生まれた。5歳で神戸市に移り住み、ディスコDJやFMラジオパーソナリティーを経て、幼少期に何度も足を運んだ思い出の球場で08年からスタジアムDJを務めている。

 打席に入るタイミングや安打を放ったり、好プレー時の選手の呼び方にもこだわりがある。例えば「ムーチョ」のニックネームで親しまれる正捕手・中村。走者がいなければ「ゴー、ナカムラ!」だが、得点圏かつ複数の走者がいるチャンスでは「レッツゴー!ムーチョ、ムーチョ、ムーチョ~!」と名前を連呼してファンの高揚感をかき立てる。

 他の選手も、場面や状況によって微妙に変化をつけている。名前以外で呼ぶ場合、事前に選手に「どう呼べばいいですか?」と確認した上で「こう呼んでください」とリクエストされることもあるそうだ。

 大切にしていることがある。「MCも含めて、絶対にネガティブな言葉やフレーズを使わないこと」。例えば「負けた」や「敗戦」などはNGワードで「残念ながら勝利とはならなかった」と言い換える。直接的なネガティブワードをオブラートに包みながらポジティブな話題へとつなげていく。当たり前のように聞こえるが、実はこれが結構むずかしい。

 「球場は野球を楽しむ場所ですから。その空間にネガティブな言葉は絶対に必要ないんです。みなさん、いろんな思いを持って球場に来られている。とにかく楽しく応援してもらえるように」

 パリ五輪でも物議を醸したアスリートへの心ないない誹謗(ひぼう)中傷は世界的な社会問題となっている。神宮球場で取材をしていて感じるのは、ヤクルトファンのヤジの少なさ。球場の構造上、クラブハウスに移動するにはグラウンドのフェンス沿いを歩いて移動しなければいけないが、少なくとも記者は一塁側のファンから選手に向けた罵詈(ばり)雑言を聞いたことはない。他球団の担当時代は、三塁側のビジターのファンの厳しい声を何度か聞いたことはあるが…。

 悔しいのは選手もファンも同じ。球場が優しい言葉であふれれば、みんなが次の日もポジティブな気持ちで大好きな野球と向き合えるはずだ。パトリックさんと話していて、あらためてそう思った。(記者コラム・重光 晋太郎)

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