上谷沙弥 理想のチャンピオンの戦いを実践 「相手を輝かせる」

2023年03月07日 08:30

格闘技

上谷沙弥 理想のチャンピオンの戦いを実践 「相手を輝かせる」
葉月と激闘を繰り広げた上谷沙弥(C)STARDOM                                Photo By 提供写真
 【牧 元一の孤人焦点】プロレスラーの上谷沙弥(26)が4日に東京・国立代々木競技場第二体育館で行った対葉月戦で、ワンダー・オブ・スターダム選手権(白いベルト)の15回連続防衛を果たした。
 そこにあったのは、プロレスのチャンピオンらしい戦いだ。相手を輝かせた上で、自分自身が輝く。葉月のダイビングセントーン、コードブレイカー、垂直落下式ブレーンバスターなど得意技を全て受けきり、客席をわかせた末に、ファイヤーバードスプラッシュ、それを返された後のスタークラッシャー2連発で仕留めて見せた。

 試合直後のインタビューで上谷は息を弾ませながらこう話した。

 「白いベルト史上、いちばん激しい防衛戦だったんじゃないかと私は思ってます。葉月は一度引退しながらも白いベルトをとりたいという思いをきっかけに復帰した、気持ちの強い選手です。この白いベルトには、人の人生を動かす大きな力があります。きょうは葉月の全てを受け止めた上で勝利したいと思っていました。葉月の熱い思いがあったからこそ、こんな激しい試合ができたんです」

 試合時間は22分48秒。両選手への声援が続く中、自然に「葉月」コールが起きる時間が何度かあった。それは、戦いの中で王者が挑戦者を光らせたことのあかし。自ら求める理想のチャンピオン像の実践と言える。

 「防衛を重ねるごとに、チャンピオンとしての器の重要さを感じます。チャンピオンは、相手の良さをどう引き出すか、考えた上で、試合の流れを作らなくちゃいけない。それが今の私の仕事です。試合で相手を光らせる。相手を輝かせる。プロレスは勝者だけじゃなく敗者も輝くものだと思っています。私はそういう試合をしていきたい。きょうの試合は、ベストを尽くせました」

 昨年の夏、8回目の防衛に成功した後のインタビューでは、チャンピオンとして「もどかしさを感じています」と胸の内を明かしていた。キャリアの浅さ、余裕のなさ、細かい技術の不足などから、試合で十分に相手の良さを引き出せていないことを自分自身が実感していたのだ。しかし、それから半年以上が経過し、白いベルト史上最多記録の14回連続防衛も達成して更新する今、状況は大きく変わった。

 「今は、もどかしさは完全になくなっています。吹っ切れて、怖い物がなくなりました。何が来ても私は動じません。堂々とチャンピオンとして胸を張っていられます」

 もちろん、順風満帆だったわけではない。チャンピオンとして常に狙われる立場は過酷だ。試合で相手を光らせるようとすればするほど自らの肉体を追い込むことになる。精神的にも厳しい。特に、昨年11月、フェニックススプラッシュで白川未奈を負傷させ、欠場させてしまったことは大きかった。

 「押しつぶされそうになることがいっぱいありました。アクシデントで白川未奈にけがをさせてしまった時には、批判の声もありました。でも、応援してくれる声があり、ファンの方々が支えてくれました。あの時、私は1人じゃないんだと思うことができました。今は会場での声援も解禁されているので、みんなの熱い思いを感じることができます。私はみんなの思いを背負って戦っているんです」

 16回目の防衛戦の相手は、その白川未奈だ。4月23日に横浜アリーナで行われる試合が今回の葉月戦とはまた違った色合いのものになることは間違いない。

 「あの白川未奈戦以来、フェニックススプラッシュを封印しています。その技をどうするかがポイントになるんじゃないかと思います。正直なところ、今、フェニックスを出すのはめちゃくちゃ怖い。自分の恐怖、覚悟もそうですけど、白川未奈にも恐怖、覚悟があると思います。上谷沙弥と白川未奈の戦いであるとともに、それぞれ自分自身との戦いでもあります。次の防衛戦はプロレス人生の中でターニングポイントになる試合だと思っています」

 かつてアイドルを志していた頃の華奢な面影は既にない。近くに寄れば、鍛えられた肉体から放たれるオーラ、磨かれた内面からにじみでる強さをひしひしと感じる。この人が追求するプロレスを、この人自身の闘いを、見極めたいと思う。4・23への期待が高まる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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