岸田首相 全面公開の政倫審で在任中のパーティー封印を約束 吉田松陰の言葉引用 政治不信払拭へ決意

2024年03月01日 04:40

社会

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、岸田文雄首相が29日、衆院政治倫理審査会に出席した。開催は15年ぶりで、現職の首相が出席するのは初めて。
 冒頭で与えられた15分間の弁明では、幕末の思想家吉田松陰の「後来の種子未(いま)だ絶えず」という言葉を引用。「志を持った有望な人材を将来に引き継いでいく大切さを述べた言葉をかみしめている。今の政治を未来の世代に自信を持って引き継いでいけるだろうか」と政治不信払拭に取り組む決意を表明した。

 続く1時間5分の質疑では、立憲民主党の野田佳彦元首相が首相のパーティー開催に矛先を向けた。2022年4月に3回開催したが、当時はウクライナ情勢の緊迫化や知床観光船沈没事故など国内外の情勢が厳しさを増していたと指摘。「総理大臣として内なる規範はないのか」と追及した。

 昨年12月15日のパーティーも中止ではなく延期としていたことを引き合いに「まだやろうとしているのか」と語気を強めた野田氏は「在任中は開催しないと明言できないのか」と再三迫ったが、首相は「今後については指摘を踏まえ適切に判断する」「首相として開催することを今は考えていない」とあいまいな答弁を連発。最後に野田氏が「今は考えていないということは、ほとぼりが冷めたらやるということだ。やらないと言ってください」とたたみかけると、ようやく「在任中はやることはない」と明言した。

 押し切られて明言した首相ではあったが、在任中の個人のパーティー封印を完全公開の場で国民に約束した形。自民党への逆風が吹き荒れる中、総裁の判断は党所属議員のパーティー開催可否にも影響を及ぼしそうだ。

 ただ驚くような新事実は飛び出さないまま約3時間で終了。安倍派(清和政策研究会)が22年にいったん中止した資金還流を復活させた過程について明確に説明できず、派閥裏金の実態に関する新たな証言は出ることはなかった。二階派の武田良太事務総長も出席したが「知らなかった」を繰り返しただけ。裏金事件を巡る国民の疑念を解消したと言うにはほど遠い内容。1日には、安倍派で役職を務めた西村康稔前経済産業相、松野博一前官房長官、塩谷立元文部科学相、高木毅前国対委員長の4人が出席する。

 ≪安倍派4人にメッセージか≫吉田松陰の言葉を引用した首相。これは、解散方針を決めた自民党安倍派幹部4人が1日に同審査会に臨むに当たり、安倍晋三元首相の故郷の偉人の言葉を引き合いに、4人に説明責任を果たすようメッセージを送ったとの見方がある。岸田首相はこれまでにも偉人の言葉を度々使用してきた。22年1月の施政方針演説では勝海舟の「行蔵(こうぞう)は我に存す」を用いて、自身の行動に責任を負う決意を表明した。同年5月に英国の金融街シティーで行った公演ではウィンストン・チャーチルの「たこが一番高く揚がるのは風に向かっている時である。風に流されている時ではない」を引用。逆境にくじけない姿勢を伝えた。

 ≪出席の狙いは予算案の成立≫首相が出席した狙いは何だったのか。政倫審は原則非公開で公開には本人の同意が必要。自民は当初、安倍派幹部ら5人の意向として非公開を求めていた。一方で、野党は5人の出席が決まらなければ予算案の審議日程の協議に応じることはできないという姿勢を崩さなかった。公開の是非を巡って折り合いがつかず28日に見込まれた開催は見送り。時間の浪費がさらなる政治不信を招きかねない中、首相は自ら出席することで5人を政倫審に引っ張り出し、24年度予算案の成立を確実にする狙いがあった。

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