真の自由、やっと現実に 支えた姉「喜びしかない」 袴田巌さん再審無罪が確定へ
2024年10月08日 21:28
社会
袴田さんは浜松市のひで子さん宅で暮らす。「近くに温泉天国のマンションができて…」。今年6月、自宅を訪ねた記者が今日は何をしたか聞くと、こう返した。体の不調は「ばい菌の仕業だ」と語り、目を閉じて顔を傾け、急に笑い出した。
一方、たびたび自宅を訪れた記者と簡単なやりとりが成立することもあった。外出に同行してよいか尋ねると「ああ、いいですよ」。好物のエビを食べるか聞いたところ「いらんいらん」と手を振り、笑顔を見せた。
昨年10月、静岡地裁で始まった再審公判への出廷は免除され、袴田さんは一度も足を運ぶことはなかった。先月26日、法廷で無罪判決を聞き、帰宅したひで子さんが「あんたの言う通りになった」と伝えたが、反応はなかった。翌朝、「再審無罪」と大見出しの新聞を見ても無言だった。
ところが、判決の3日後、静岡市内で開かれた集会で、聴衆の前に立った袴田さんは「待ち切れない言葉でありましたが」と切り出し「無罪勝利が完全に実りました」と話し、頬を緩めた。ひで子さんは、「無罪勝利」は拘置所に収容中、冤罪が晴れた時に宣言すると繰り返していた言葉だと推し量り、「無罪判決が出てから、生き生きとしているようにみえる」と袴田さんの「変化」を少しずつ感じている。
逮捕から58年。失った時間はあまりにも長い。姉弟が待ちに待った穏やかな日々がようやく始まる。ひで子さんは「巌がもう死刑囚でなくなることがうれしい」と前を向いた。
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再審無罪まで半世紀以上かかった袴田さんの事件から、現代への教訓を考える。