真の自由、やっと現実に 支えた姉「喜びしかない」 袴田巌さん再審無罪が確定へ

2024年10月08日 21:28

社会

真の自由、やっと現実に 支えた姉「喜びしかない」 袴田巌さん再審無罪が確定へ
静岡地裁の再審無罪判決から3日後に開かれた集会で、あいさつする袴田巌さん。右は姉ひで子さん=9月29日、静岡市 Photo By 共同
 1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑判決を受けた袴田巌さん(88)の再審無罪が確定することになった。袴田さんは長期収容による拘禁症状を患い、意思疎通が難しい。この日の意味をどれほど理解しているか分からない。それでも、代わりに出廷してきた姉ひで子さん(91)は「喜びしかない。完全無罪になったことが巌に分かってもらえるよう、これからも伝えていく」と晴れ晴れした笑顔を見せた。真の自由を求めた長い闘いがやっと終わった。
 袴田さんは6人きょうだいの末っ子。三つ上のひで子さんは無実を訴える弟を支え続けた。袴田さんには死刑が確定した80年ごろから「ハワイの大王になった」「事件はないんだ」と口にするなど、拘禁症状が現れた。面会も拒まれるようになったが、ひで子さんは一目会えればと東京拘置所に通った。逮捕から約48年後の2014年3月。静岡地裁決定で袴田さんの釈放が決まり、拘置所に駆けつけ、握った弟の手のぬくもりは忘れられない。

 袴田さんは浜松市のひで子さん宅で暮らす。「近くに温泉天国のマンションができて…」。今年6月、自宅を訪ねた記者が今日は何をしたか聞くと、こう返した。体の不調は「ばい菌の仕業だ」と語り、目を閉じて顔を傾け、急に笑い出した。

 一方、たびたび自宅を訪れた記者と簡単なやりとりが成立することもあった。外出に同行してよいか尋ねると「ああ、いいですよ」。好物のエビを食べるか聞いたところ「いらんいらん」と手を振り、笑顔を見せた。

 昨年10月、静岡地裁で始まった再審公判への出廷は免除され、袴田さんは一度も足を運ぶことはなかった。先月26日、法廷で無罪判決を聞き、帰宅したひで子さんが「あんたの言う通りになった」と伝えたが、反応はなかった。翌朝、「再審無罪」と大見出しの新聞を見ても無言だった。

 ところが、判決の3日後、静岡市内で開かれた集会で、聴衆の前に立った袴田さんは「待ち切れない言葉でありましたが」と切り出し「無罪勝利が完全に実りました」と話し、頬を緩めた。ひで子さんは、「無罪勝利」は拘置所に収容中、冤罪が晴れた時に宣言すると繰り返していた言葉だと推し量り、「無罪判決が出てから、生き生きとしているようにみえる」と袴田さんの「変化」を少しずつ感じている。

 逮捕から58年。失った時間はあまりにも長い。姉弟が待ちに待った穏やかな日々がようやく始まる。ひで子さんは「巌がもう死刑囚でなくなることがうれしい」と前を向いた。
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 再審無罪まで半世紀以上かかった袴田さんの事件から、現代への教訓を考える。

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