NHK杯恥かき日記1 羽生結弦選手の「ズサ」?を撮る

2016年12月03日 09:35

フィギュアスケート

NHK杯恥かき日記1 羽生結弦選手の「ズサ」?を撮る
<NHK杯男子SP>気迫の表情でトリプルアクセルを着氷する羽生 Photo By スポニチ
 【長久保豊の撮ってもいい?話】旅の恥のきっかけはNHK杯公式練習日だった。
 「今季の羽生結弦選手のSPの狙い目はズサーッだよね」。カメラマン仲間がそう言うのを小耳にはさんだ。

 「ズサ」とはなんぞや。「演技終盤でさ、右手をグッと後ろにそらしてヒザで滑るやつ。あれ絵になるよ」。それならもちろん予習済み。なるほどあれはズサという技なのか。スペルはZUSA?、DUSA?。

 各国の選手権をナショナル、世界選手権をワールドと呼ぶ、通ぶりたいお年頃。SPの本番ではジャッジ席側の観客席後方から撮りましたよ、その「ズサ」を。

 キャプション(写真説明)は「演技終盤、ズサで観客を沸かせる羽生選手」でいいのかな。

 会社への送信直前に再確認。「ズサでいいんだよね」。

 「あれはズサーッって滑る感じだから、みんなそう言ってるだけですよ」

 ×  ×  ×

 「口で語るな、写真で語れ」と言われ続けたわれわれです。でも少しの説明を加えただけで、いい写真がすごくいい写真になる場合が多々あります。

 このコラムの写真もその一例。躍動感があってまさしくスポーツ写真です。ボクと同じ撮影位置には10人程のカメラマンがいたので他の媒体でご覧になった方も多いと思います。でも問題はそのキャプション。

 「演技する羽生選手」だけではかっこいい写真で終わってしまいます。

 実はこの写真、最後のトリプルアクセルの着氷直後の写真なんです。遠心力で後方に流れるフリーレッグ(左足)をねじ伏せて真上にはね上げる。羽生選手の超人的な動作の一連の流れの中での1コマなんです。こう説明するとかっこいい写真がスゴかっこいい写真になると思いませんか。

 さすがに全部説明するわけにはいきませんから「トリプルアクセル着氷後の羽生選手」ぐらいが適当か。後は写真が読者やファンの想像力に語りかけてくれるでしょう。

 さて写真説明にちょっと彩りを加えようとして赤っ恥をかいた「ズサ」のその後です。

 真駒内にいた業界関係者、選手OBの方々に聞いて回ったところ「え~っ、名前なんてないんじゃない」という反応。

 知らないと言うのがよっぽど嫌なのか「宇野くんのクリムキンイーグルは米国ではカンチレバーって呼ぶのが一般的」とわけのわからないウンチクを語る人も。

 結局「ストレッチ」と明確に答えてくれたのはデビットさんという公式カメラマンだけ。でもニヤニヤしていたから多分、ウソだ。

 「本人に聞いてくればいいじゃん」。

 それができれば苦労しないって。

 次回「NHK杯恥かき日記2 真駒内に陽炎立つ」に続く…かも。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。帯広畜産大学卒。牛、馬、犬、ネコには友達が多いが人間界には敵が多い。

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