まっちーの背中は美しいPart2 町田樹という名のボレロ

2018年05月07日 10:00

フィギュアスケート

まっちーの背中は美しいPart2 町田樹という名のボレロ
<プリンスアイスワールド2018>ボレロを演じる町田樹さん=5月3日(撮影・長久保 豊) Photo By スポニチ
 【長久保豊の撮ってもいい?話】冗舌だった会場が黙り込む。頼りない光の中で始まった男の演技が進むにつれ、観客たちの五感が研ぎ澄まされていく。そしてさらなる光を、さらなる音を、さらなる舞いを求める欲望が加速する。演者は8分間に渡ってそれに答え続け、観客たちの魂を揺さぶり、カメラの露出計を振り切るような光と漆黒の闇が交錯しフィナーレを迎える。「ブラボー!」の声は確かに飛んだ。だが多くの人の口から出たのは「凄い」という言葉だけだった。人々はそれ以外の言葉を失ってしまったのだ。
 プリンスアイスワールド2018横浜公演。町田樹さんのボレロ(Bolero)を見た。昨年、「町田樹は人々をおしゃべりにさせるスケーター」と書いた。だが心を奪われ言葉を失ってしまった人々を目の当たりにして、それは間違いだったのかと思った。

 今回、報道陣に公開されたのは4月28日と5月3日の2回。カメラ撮影位置は少し違っていたが、さすがは360度(実際は入退場口があるので330度ほど)を満足させる町田樹劇場だ。どちらから見てもボレロは魅力的だった。そしてまた撮るのではなく撮らされた印象が残った。それぞれ1310カット、1322カット。撮影した枚数も凄いが、これは動画のごとくシャッターを押し続けた結果ではない。決まった、絵になった、面白いと思った瞬間にシャッターを切った数なのだ。初見より2回目の方がカット数が多いのも異例のことだ。

 実は昨年の「ドン・キホーテ ガラ2017 バジルの輝き」の第3幕で撮り逃したものがある。麦の穂をポケットに入れ(実際は刺繍)、豊穣の大地を歓喜し、舞うバジル。その躍動感に夢中になって町田樹さん本人をアップで狙うことしかしなかった。観客を入れ込んだ写真を撮らなかった。なぜ失敗かって?黄色みがかった場内照明に照らされスタンディングオベーションする観客たち。それはまさしく風に揺れる麦の穂、豊穣の風景だったのだ。町田樹にしてやられたと私が勝手に思ったのは公演から2カ月も後のこと。

 町田樹のボレロを見てしまった観客達がその後、どうなったのかは知るすべもない。おそらく言葉を取り戻したのは帰りの電車の中、あるいは仲間たちとの食事の最中ではなかったか。家に帰ってからはバレエのジョルジュ・ドンやシルヴィ・ギエムのボレロを動画サイトで見つけ、取り戻したばかりの言葉を駆使しておしゃべりしたのではないか(私のように)。最初の照明を身体の一部分だけを照らすものにしたらとか、ラストは群舞の中でもいいのではとか。いっぱしの演出家や評論家を気取ってみても結局は「町田樹は凄い」に帰着する。やはり彼は人をおしゃべりにさせるスケーターだ。

 撮影した膨大な数のカットを1枚、1枚確認しながら、また何かしてやられているのではと怯えている。それに気がつくのは2カ月先か半年後か。

 冷や酒と町田樹は後で効くーーからね。(写真部長)

◆長久保豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれ。プリンスアイスワールド40周年記念DVDをゲット。佐野稔さんのバックフリップ、プリンスアイスワールドチームの変わらない熱演に感動する56歳。※ショーの模様はBSジャパンで5月20日午後1時30分放送だそうです。

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