米国でもレアケースの記者会見 日大・宮川選手の重い決断
2018年05月22日 16:35
アメフト
理由は実に簡単だ。まだ20歳前後の選手を追い詰めることは、決して「社会的正義」とはならないからだ。
CHEAP・SHOT。米国ではおよそスポーツマンらしからぬ卑劣な行為をこう呼んでいる。今回の日大・宮川選手がおよんだタックルもこの部類だ。これほどまでに常軌を逸したプレーはアメリカン・フットボールの母国でも皆無なのだが、似たようなケースならある。
昨年12月。NFLペイトリオッツの主力タイトエンド(TE)、ロブ・グロンコウスキー(29)は、自分に対して投げたパスをインターセプトしたビルズの新人コーナーバック(CB)、トレダビアス・ホワイト(23)に蛮行をふるった。ボールを持ったままうつぶせ状態になっていたホワイトに対し、プロレスでいうところの「エルボー・ドロップ」を見舞ったのだ。無防備な体勢になっている選手への体当たりとしては似ている部分がある。
審判の判定はグロンコウスキーの「アンスポーツマンライク・コンダクト(非紳士的行為)」。宮川選手同様に15ヤードの罰退をコールされた。ただしその後、1試合の出場停止処分をリーグ側から科せられたが、試合時には退場は宣告されなかった。
「似ていない」部分がある。
試合終了後、ペイトリオッツのビル・ベリチック監督(66)はビルズのロッカールームに足を運び、ビルズのショーン・マクダーモット監督(44)に謝罪。日本式に言えば頭を下げた。指揮官が謝った以上、グロンコウスキーとしても何かを言わざるをえなかったようで「彼(ホワイト)に謝罪したい」と取材陣の前で語っている。ホワイトは「グロンコウスキーが自分の前では謝っていない」と主張していたが、このトラブルは早期決着。その背景には、スーパーボウルを5度制した名将ベリチック監督の間を置かない素早い“リカバリー”があったからだ。
もう少し突っ込んで言うと、どんなスポーツであっても監督という肩書をもつ人間には戦術、指導力といった部分以外に「危機察知能力」というものが必要なのだ。「この状況で今、何をすることが必要なのか?」「何をすれば大きなトラブルを回避できるのか?」。その能力なくして多くの選手を率いることはできないと思う。
さて日大の宮川選手は米国のトップ選手ですら避けている“イバラの道”に足を踏み入れた。記者会見で自らの顔をさらし、自らの言葉で、自らの不祥事を語ることは20歳の若者には大きな負担だったことだろう。かなりの覚悟が見てとれた。そしてフットボールはもうやらない、と言う。見ている側もつらい記者会見だった。
人生の選択は本人の自由だ。それについてとやかくは言わない。しかしニュートンもメイフィールドも逮捕歴があるのにフットボールは捨てなかったし、グロンコウスキーも現役を続けている。
かつてNBAファイナルで優勝経験がある元ブルズのロン・ハーパーが敗れた試合後にこんなことを言っていた。その試合は審判の微妙な判定で流れが変わり、チームにミスが続出して、チーム全員のシュートが入らなかった不本意な一戦。だが彼は「それもゲームの一部。うまくいかないことが重なってもそれを受け入れるべきだ。次は違う展開になる、そう信じることだ」と言い訳はしなかった。
人生最悪のCHEAP・SHOT。乗り越え方はいろいろある。ただそれは人生の全部ではなく一部だ。「次は違う展開になる」と信じれば、宮川選手の選択は違うものになるのではないだろうか?
かつてNFLのコルツとドルフィンズを率いていたドン・シュラ元監督は「優秀な人は自分自身を責めるが、並みの人間は他人を責める」と語っている。まだ20歳。間違いは犯したが、少し冷却期間を置いたのち、もう一度、自分と向き合ってほしい。(デジタル編集部専門委員・高柳昌弥)
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