日本バスケ界の至宝 八村塁を待つ「近未来」 価値観とスケールの違うアメリカンドリーム
2019年01月05日 11:55
バスケット
2メートル3、104キロ。ゴール下で得点を稼ぐためのスキルが豊富で、昨年まであまり打たなかった3点シュートも打つようになった。しかも本数が少ないとは言え、成功率は開幕15試合で45・0%に達しており、30%台の後半であれば「優秀」とされる部門での技術も身につけ始めた。
日本人選手がNBAドラフトで指名されたケースは過去に一度だけ。1981年、日本代表のセンターを務めていた岡山恭崇氏(当時住友金属)が8巡目(全体171番目=未契約)にウォリアーズからその名をコールされて以来、すでに37年間、縁のない世界となっている。
しかも現行のNBAドラフトは2巡目までで、指名されるのは60人のみ。20世紀とは違って21世紀の指名候補は世界各国に散らばっており、北米4大スポーツの中では最も狭き門だ。
サッカーには世界のトップと呼べるリーグがいくつか存在しているが、男子バスケットボールで世界最高峰と呼べるのはNBAのみ。頂点がフラットではなくピンポイントとなっているために、指名される選手は若手の中ではエリート中のエリートということになる。
ジョージ・ワシントン大出身の渡辺雄太(24)はNBAグリズリーズと傘下のマイナー、Gリーグ・ハッスルとの「2―WAY契約」を締結し、昨年10月には日本人2人目のNBA出場を果たしたが、ドラフトでは指名されなかった。
NBAに所属する各選手のサラリーは放送権料のアップなどによって急激に増えている。今季の平均年俸は744万3228ドルで、1ドル=108円で計算すると約8億円。最高年俸を得ているウォリアーズのステフィン・カリー(30)は3745万7154ドル(約40億円)で、彼のサラリーは2021年シーズンになると4578万966ドル(約49億円)にまで跳ね上がる。
高額サラリーが必ずしも「アメリカンドリーム」と直結するわけではないが、NBAに世界のトップ選手が集結する理由のひとつになっていることは確かだ。
さて北米4大スポーツではドラフト1巡目で指名されても「待遇」は指名順によって随分と異なっている。つまり上位で指名されればされるほど契約金は高い。NBAでも指名選手の「基準額(ルーキー・スケール)」が指名順ごとに決められているが、これも年々増えている。
限度額ではなく基準額なので各球団はその額の80〜120%の範囲内での契約が可能。ただし当然のことながら、1巡目指名選手はほとんどが“満額”の120%での契約となっている。
昨年全体トップで指名されたサンズのセンター、ディアンドレ・エイトン(20=アリゾナ大出身)の今季の年俸は816万5160ドル(約8・8億円)。これはトップ指名選手の基準額(680万4300ドル)のちょうど1・2倍で、NBAでデビューする前からリーグの平均年俸を上回っている。
では日本人2人目のNBAドラフト指名選手になることが濃厚になっている八村に照準を合わせてみよう。
スポーツ専門局のESPNは八村の指名順位を1巡目の全体12番目と予想。すると2019年度の12番目指名選手の初年度基準額は318万9100ドルなので、120%の満額になると382万6920ドル(約4・1億円)ということになる。ここのところ急激な円高となっているので、もし2018年度末までの為替レートなら額はもっと多い。
そして3年目の基準額を1・2倍すると420万9720ドルで、もし4年目のオプションが適用されると(3年目の年俸の37・8%増)、彼の年俸は2022年シーズンには580万994ドル(約6・3億円)にアップ。12番目の指名選手であってもこれだけの年俸を手にする世界が目の前に広がってくる。
では本当に12番目の指名なのか?ESPNがドラフト指名候補を予想したとき、ゴンザガ大はまだ「マウイ招待(2018年11月21日)」で強豪デューク大に勝っていなかった。相手はその時、AP通信とコーチ協会のランキングで1位であり、先発5人のうち3人までがドラフト最上位の指名候補。しかもゴンザガ大には本来の主力センター兼フォワード、キリアン・ティリー(20=3年)が故障で離脱中だった。
その中でゴンザガ大は89―87で強敵をなぎ倒し、八村はチーム最多の20得点と7リバウンドをマークしていた。
全米を驚かせた一戦。だからそのヒーローの“格付け”が上がらないわけはない。そして仮に八村が全体6番目で指名されたとすると(ありえない話ではないと思うが…)、日本のプロスポーツ界に今まで経験したことがなかった衝撃が走ることになるかもしれない。
2019年度の6番目指名選手の基準額を1・2倍すると575万5290ドル。1ドル=108円のレートでは6・2億円だが、もし昨年末の113円であれば6・5億円になる。これはプロ野球・巨人の菅野智之投手(29)が7年目で手にした球界史上最高に並ぶ今季の年俸と同じだ。さらに指名順位が全体5番目以内なら、まだプロデビューもしていない八村の“初任給”が菅野を上回ることになる。ことさらサラリーだけで「夢」を語るつもりはないが、それでも日本の子どもたちが抱いてきた従来の価値観を劇的に変える瞬間が目前に迫っているような気がしてならない。
もちろん八村の今季の最大の目標は2年ぶりとなる全米大学選手権(NCAAトーナメント)」でのファイナル4進出だろう。まだ1年生だった2017年ファイナル4決勝ではノース・カロライナ大に65―71で敗れたが八村の出場機会はなし。しかし今季はチームの大黒柱としてのシーズンだけに、ドラフト前にNCAAの“頂点”を目指してほしいところだ。
さて2019年は八村と日本のスポーツ界にとってどんな1年になるのだろうか?誰もが予想しなかった近未来。時代は確実に動き始めている。(高柳 昌弥)
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