米国の1月20日 なぜワシントンDCでウィザーズの試合が一番先に始まったのか?
2020年01月21日 09:38
バスケット
キング牧師は1929年1月15日にジョージア州アトランタで誕生。暗殺されて39歳でこの世を去ったのは1968年4月4日で、1986年に1月の第3月曜日が米国の祝日となってからは34年が経過した。時は確実に流れているが、スポーツ界ではどの祝日よりもこの日が最も身近な存在。2020年1月20日、NBAは35回目となった「キング牧師記念日」にシーズン最多の14試合を組んでいたが、その最初の試合は八村塁(21)が在籍しているウィザーズの本拠地でもある首都ワシントンDCで東部時間の午後2時から行われた。
なぜワシントンDCが一番先だったのか?それはキング牧師が1963年8月28日、ここで「ワシントン大行進」と呼ばれる人種差別撤廃を訴えるデモを組織化し、20万人を超える参加者の前で「I have a dream」の名文句に代表される歴史的なスピーチを行ったからだろう。ウィザーズ対ピストンズ戦の30分後には、ニューヨーク州ブルックリンでネッツ対76ers戦が始まるが、そのわずかな時間差にキング牧師への“リスペクト度”の大きさが見え隠れしている。
キング牧師の故郷、アトランタを本拠にしているホークスの選手たちはこの日、「We cannot walk alone(我々は1人だけでは歩いていけない)」と胸にプリントされたシャツを試合前の練習で着用していた。これもワシントン大行進での演説でキング牧師が口にした名言のひとつ。この演説には人種差別を続ける白人への批判だけでなく、それを理由に暴力に走る黒人への戒めをも含めた2つのベクトルがあるのだが、その前段はこうなっていた。
「驚くべき新たな闘志(Militancy)が黒人社会を包んでいるが、それが白人に対する不信につながることがあってはならない。なぜなら白人の多くは彼らの運命が我々の運命と結びついていることを理解するようになったからだ。また彼らの自由も我々の自由と結びついているからだ」
つまり「We」は黒人だけでなく白人をも含んでおり、やがて暗殺されるという身でありながら、キング牧師は白人と黒人の双方に“自制”を求めていた。だからこそ意味が大きく重くなった一節。そして「1人では歩けない」と語ったあと、「歩くからには前進あるのみということを誓わなくてはいけない」と続けて不退転の決意を示している。
演説の原文を読み返してみた。内容を何度も吟味したと思われる部分がいくつもある。差別を受けた人間が差別をした人間に向かってぶつける魂を込めた文言だが、「正当な居場所を得る過程で不正な行為をしてはならない。憎悪を飲み干すことで自由への渇きをいやしてはいけない」という下りは今でも心に突き刺さる。
あれから57年。キング牧師にとっての「夢」は依然として「夢」のままなのかもしれない。ただしスポーツ界には少し違った光景があり、それが1月20日の日程と選手のシャツが象徴していたように見えた。1996年1月、私はアリゾナ州テンピで開催されたスーパーボウルを取材。しかしなぜ地元の記者たちがキング牧師記念日についての質問を選手にぶつけるのかが最初は理解できなかった。演説原文を読んだのもそのときが初めて。ある意味、私の記者生活の新たな“起点”はそこにあったような気がしてならない。
ウィザーズはこの日、ピストンズに勝って連敗を3で阻止。東地区全体で最下位に沈んでいるホークスは昨季の王者ラプターズに5点差で敗れたが、最後まで食い下がった。第1試合となったウィザーズ対ピストンズ戦のティップオフから、第14試合となるトレイルブレイザーズ対ウォリアーズ戦がオレゴン州ポートランドで始まるまで8時間。「米国の一番長い一日」はバスケとともに過ぎ去っていった。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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