上水研一朗氏 阿部VS丸山の世紀の24分決戦 阿部の勝因を防御、攻撃、流れで分析

2020年12月13日 20:05

柔道

上水研一朗氏 阿部VS丸山の世紀の24分決戦 阿部の勝因を防御、攻撃、流れで分析
 丸山城志郎(左)を攻める阿部一二三(代表撮影) Photo By 代表撮影=共同
 非常に濃密な、見どころのある24分間をみせてくれた2選手に、敬意を表したい。阿部が勢いを持っていた序盤、組み手を工夫しながら丸山が巻き返した中盤、そして決着と、2人のこの4年間を想起させるような流れの試合だった。最後は阿部が大内刈りを繰り出し、丸山が返そうとしたものの、阿部が強みである体幹の強さで押し切ったのだが、勝因は大きく3つ。防御、攻撃、そして流れ、と分けて考えてみたい。
 (1)防御 まずは見どころでも指摘したように、丸山の釣り手となる左手を、阿部は最後まで集中力を切らさず徹底して上から抑えて、仕事をさせなかった。加えて光ったのは、低い姿勢を保ち続けたことだろう。過去には巴投げなど、もぐり込まれての捨て身技でポイントを奪われたこともあるだけに、研究の成果が出た。

 (2)攻撃 最後は大内刈りだったが、この日の阿部の攻撃で最も丸山を苦しめたのは、小内刈りと足払いという足技だった。右組みの阿部が右脚で丸山の右脚を内側から刈るのが小内刈りということになるが、左組みの丸山にとっての右脚は、軸足にあたる。軸足を攻められると、思い切って前には出づらくなり、技も繰り出しにくくなる。以前は右脚で相手左脚を内側から刈る大内刈りと背負い投げのコンビネーションが阿部の攻撃パターンだったが、新たな技の残像が最後まで生きた。

 (3)流れ 延長6分過ぎに巴投げを繰り出したあたりや、15分を過ぎて組み手で圧力を掛けて前に出てきたあたりは、完全に丸山ペースに見えた。この両方のタイミングで、阿部は出血負傷によるタイムを、自ら宣している。丸山にとっては“不要”な間であり、阿部にとっては頭を切り換える重要な間となった。意図的であったかどうかは本人のみぞ知ることだが、この2度のタイムは試合の流れを阿部に引き戻した。

 体を密着させ、強じんな体幹で相手を根こそぎ引っこ抜くような阿部の柔道は、非常に豪快で魅力的ではあったが、それだけでは勝てないことを教えてくれたのが丸山の存在だった。言い換えれば「自分の柔道」を貫くだけでなく「相手の柔道」をどう分析し、防ぐかを教えてくれた存在。阿部は豪快さに緻密さ、繊細さをプラスする必要に迫られ、実際に進化した。五輪本番までその姿勢を貫ければ、いい結果が期待できると思う。(東海大体育学部武道学科教授、男子柔道部監督)

おすすめテーマ

2020年12月13日のニュース

特集

スポーツのランキング

【楽天】オススメアイテム