【橋本聖子会長×二宮清純氏特別対談(1)】火中の栗は宝物、深く悩んだ大臣辞任
2021年03月22日 08:35
五輪
橋本 びっくりしました。まずは早く対応しなければいけませんでした。
二宮 五輪に関わる人は五輪憲章をしっかり読むことになっていると聞きました。しっかり読んでいたら、これはまずいなとブレーキがかかっていたはずです。
橋本 たとえ読んでいたとしても、まだまだ社会に根付いている意識から脱却できないところがある。よく言われる「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」の部分。なかなか変わりきれないですね。
二宮 開閉会式の演出責任者は代わることになりましたが、アウトラインは固まっていますか。
橋本 もう4カ月ですから、佐々木チームがつくり上げてきたものを継承しながらやっていくと思います。まだ(プランは)上がってきていません。経費の問題も含めて簡素化になったので、(1年前に)つくり上げてきたものからは変わらざるを得ない。
二宮 最終聖火ランナーはいかがでしょう?
橋本 決まっていないですね。
二宮 しかし、よく会長をお引き受けになりました。火中の栗どころか、イガイガだらけの栗じゃないですか。橋本会長は途中で投げ出すことが嫌な人だと昔から思っていました。五輪担当大臣は重い仕事です。相当悩まれたのでは。
橋本 短時間で悩みましたね。奥深く。やはり政治家としての悩みが一番です。本人はそう思っていなくても、支援者はいつか大臣になってもらいたいと願っている。私は大臣になるのが遅い方だったので、余計に後援会の思い入れが強かった。「せっかくここまで支援したのに、途中で何だ」と言われるかもしれない。時間がない中で、どう伝えれば理解してもらえるかが悩みでした。検討委員会委員長の御手洗(冨士夫)名誉会長からお話を聞いた時には、これは受けなければいけないと思いました。多くの方からは火中の栗と言われます。昔から(06年には日本スケート連盟の不祥事の後に会長に就任するなど=注2)火中の栗拾いばかりしていると言われてきたけれど、自分ではそう思っていません。目の前に困っている人、大事な人が火中にいたら、誰だって行きますよね。
二宮 いや、それは勇気がいります。橋本会長は昔から「人生は困難の道を選ぶ」と言っている。普通は楽な方を選びますよね。
橋本 そういう性格に育てられてしまったのでしょうね。
二宮 困難から逃げることが生き方に合わない。
橋本 それはつらい。火中の栗がどれだけ素晴らしい宝物かを知っているから、それは取りに行きますよね。
(注1)開閉会式の企画、演出の総合統括だったクリエーティブディレクター佐々木宏氏が昨年3月、タレント渡辺直美の容姿をブタに例えた演出をLINEで演出チームのメンバーに提案。反対されて撤回したが、文春オンラインの報道を受けて辞任。渡辺は昨年に出演依頼を受けていたと明かし、「私自身はこの体形で幸せです」とコメントを発表。
(注2)06年2~4月に日本スケート連盟の久永勝一郎元会長や複数の理事による不正経理、公金の私的流用などの疑惑が次々と報道。松本充雄専務理事ら8人が引責辞任した。6月に橋本新会長が就任するなど体制が一新。10月には久永元会長や松本元専務理事が逮捕され、07年3月にいずれも背任罪で有罪判決を受けた。
◆橋本 聖子(はしもと・せいこ)1964年(昭39)10月5日生まれ、北海道出身の56歳。84年サラエボ大会にスピードスケートで冬季五輪初出場。92年アルベールビル大会の女子1500メートルで冬季五輪日本女子初の銅メダルを獲得。夏季の自転車と合わせて日本女子最多の五輪出場7回。95年に参院選で初当選し、国会議員として96年アトランタ五輪に出場。引退後は日本スケート連盟会長、JOC理事、日本自転車競技連盟会長などを歴任。10年バンクーバー五輪、14年ソチ五輪では日本選手団団長。19年9月から東京五輪・パラリンピック担当、女性活躍担当、内閣府特命担当大臣(男女共同参画)を務めた。98年に警察官と結婚。3男3女がいる。
◆二宮 清純(にのみや・せいじゅん)1960年(昭35)2月25日生まれ、愛媛県出身の61歳。フリーのスポーツジャーナリストとして五輪は過去に8回現地取材。本紙では00年シドニー夏季五輪、02年ソルトレークシティー冬季五輪、04年アテネ夏季五輪で観戦記を執筆した。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」「最強のプロ野球論」「歩を『と金』に変える人材活用術」(羽生善治との共著)など著書多数。19年から広島大学特別招聘(しょうへい)教授も務める。
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