始球式でスピード違反?上野由岐子に今も宿るアスリートとしての本能
2023年10月24日 16:00
ソフトボール
実際に見た駒沢球場での始球式は時速90キロに抑えられていたが、その2時間ほど前に世田谷区総合運動公園で行ったものは違ったらしい。ペルー―イタリア戦の始球式を、本人が苦笑いで振り返る。「軽く投げてくださいって言われて、軽く投げたつもりだったんですけど、キャッチャーが捕球できなくて…。周りの人には『110キロ出てた!』と冷やかされました。ヤバいっすね」
おそらく決して本気のピッチングではなかっただろうが、15歳以下の選手には衝撃だったと思う。現在は上野にとってもシーズン真っ最中。だが、世界中のホープたちにホンモノを見せるという意味で、これほど有意義な始球式もなかったのではないだろうか。少し危ないけど。
このW杯、投手陣の繰り出すボールは軽く100キロを超え、とても15歳以下とは思えない。ボールの規格が変わったとはいえ、私が最初に見た五輪、2000年シドニーで銀メダルを獲得した日本代表に、100キロを超えるボールを投げる投手は不在だった。29日に太田スタジアムで閉幕するまで、入場無料の大会を覗いてみるのも一興だ。
そのプレーを見つめていた上野は「まだ体の使い方に無駄が多いっすね」とにやにやしていた。言葉には後輩たちへの温かい期待と同時に、自身のアスリートとしての熱が宿っているようだった。
「もう目標ではありえないですけど、ロサンゼルスって、あと5年しかないんですよね」
その言葉の真意は聞きそびれた。だが、個人的には「もしかしたら…」の気持ちがむくむくと湧き上がった一日だった。(首藤 昌史)